傑作にも「一向におもしろくもおかしくもないものがある」――世界に散らばる「読書論」から“面白い本”との出会い方を探る

文芸・カルチャー

公開日:2023/7/27

編集者の読書論~面白い本の見つけ方、教えます
編集者の読書論~面白い本の見つけ方、教えます(光文社新書)』(駒井稔/光文社)

 良書との出会いは、人生を豊かにする。良書にたくさん出会ってきた人ほど、それを実感しているだろう。連日の猛暑で外出が億劫な休日は、良書に触れていたいところだ。

 タイトルに惹かれて、『編集者の読書論~面白い本の見つけ方、教えます(光文社新書)』(駒井稔/光文社)を開いてみた。本書は、「光文社古典新訳文庫」創刊編集長による一冊。多くの本に出会ってきた編集者としての経験から、世界中に散らばる良書を紹介している。

 同時に、本書は数多くの視点による読書論の紹介に紙幅を割いている。数多くの視点というのは、例えばロシア、フランス、ドイツ、アメリカ、イギリスといった世界各国の編集者による読書論であったり、世界の作家や著名人などによる読書論であったりする。本書に収録された情報量は膨大であるため、本稿ではごく一部の「読書論」を簡単に紹介したい。

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 著者が「好きだ」と勧めるモームは、フランス生まれのイギリスで活躍した小説家。このモームが書いた読書論は『読書案内―世界文学』という非常に薄く、しかし内容が濃い本から読み取れるという。モームは、ここで本の読み方や良書について述べている。

 本書によると、モームが指す良書とは「とにかく楽しく読めるもの」であるようだ。著者は、自分自身が生きてきた20世紀の文学の中に、難解なヌーヴォーロマンなど「これが分からないと文学が分からない」といった圧力を感じて読んだ経験から、早く『読書案内―世界文学』と出会いたかった、と述懐している。さらには、傑作とされていても「一向におもしろくもおかしくもないものがある」とさえモームは言いのけており、難解な本を理解できない読者にとってありがたい言葉ではないか、と著者は述べている。

 この他、モームは「飛ばして読む権利を行使せよ」といったメッセージも発信しているそうだ。読書は精読しなければならないわけではなく、もっと力を抜いてカジュアルで良い、といった意味に受け取れば、読者がより身近なものになるかもしれない。

 続いて、本書はアメリカの小説家、ヘンリー・ミラーの読書論を紹介している。ヘンリー・ミラーのメッセージは、「できるだけ少なく読みたまえ!」といったもの。本書に掲載されているミラーの引用文には、このような文がある。

「かつて心のなかであれほど長いあいだあこがれて来た書物のすべてをかたっぱしから読破したいと心ひそかに思わぬでもない。が、それが大切なことではないことをぼくは知っている。いまでは、かつて読んだ十分の一の本さえ読む必要はなかったことを知っている」

 この他、本書では多様な読書論が取り上げられているのだが、本稿でごく簡単に紹介した読書論の一部を「良書との出会い」に繋げるならば、例えば書店で気になった本を気軽に手に取ってさっと読み、一部でも面白そうな、あるいは役に立ちそうな内容があれば、考え込まずに買ってみてもいいではないか、ということになるだろうか。多くの本との接触が増えれば、良書との出会いも増す。ひいては、人生がより豊かになるに違いない。

文=ルートつつみ (@root223

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