同じ映画を離れた席で観る女、番犬をレンタルする高齢女性…。6人の作家が描く「おひとりさま」に活力をもらう

文芸・カルチャー

公開日:2023/9/24

おひとりさま日和
おひとりさま日和』(双葉社)

おひとりさま日和』(双葉社)は、6人の作家がそれぞれおひとりさま女性を描いた短編集である。なかでも、〈一緒になにかをしても心が離れたままの夫と過ごすより、ひとりのほうがずっといい〉と意地を張って自分に言い聞かせていた女性が、かろやかに「ひとりは淋しくないのだ」と心から思うことのできる瞬間を描いた「週末の夜に」(咲沢くれは)は、おひとりさまの心境をとても丁寧に掬いあげている気がする。

 主人公・頼子は中学教師で、日頃より女子生徒から独り身であることを揶揄され、同僚たちにも「変わり者だ」という目で見られている。離婚の原因は夫が若い女に走ったこと。自分は淋しくない、これでいいのだと証明するために力の抜きどころを忘れてしまうのは、当然である気がする。そんな彼女が、かつての教え子の母親に出会い、同じ映画を離れた席で観る関係を手に入れたことで、心から今の自分を肯定することができたのが、読んでいて嬉しかった。二人でいることも、一人でいることも、いつだって自分で選べるのだと思えたから。

 おひとりさまは、必ずしも孤絶しているという意味ではない。「サードライフ」(新津きよみ)では、引っ越してきて2カ月半で夫が急逝してしまった66歳の千枝子が主人公。知らない人だらけの田舎でお母さんが一人で暮らせるはずがない、と娘に迫られるとおり、この先を一人で生きてやるぞ! という気概は彼女にない。が、できることなら自分でがんばりたい、という意志はある。そんな彼女が、思いがけない縁で土地の人たちと繋がり、居場所を獲得していく姿が、とても好きだった。

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 おひとりさまで生きるということは、自分に責任をもつ覚悟が必要だ。けれど、それは誰にも頼らずに生きるということとも違う。「リクと暮らせば」(大崎梢)のように、高齢の独り住まいに不安が生じたら、番犬のレンタルサービスを依頼するなど、打てる手を打つことで日常がいい方向に一変するかもしれない。

 もちろん、ご近所づきあいはいいことばかりではない。「幸せの黄色いペンダント」(岸本葉子)のように、距離感の近すぎるマンション住人をストレスに感じたりトラブルに巻き込まれたりすることもあるだろう。けれど「最上階」(松村比呂美)のように、血が繋がらない関係だからこそ助け合えることもきっとあるはずなのだ。

 そんななか、ちょっと毛色の違う「永遠語り」(坂井希久子)が個人的にはいちばん好きだった。心身を壊し、染色家の叔父に弟子入りし、山のなかで暮らす主人公が月に一度しか会えない恋人について「山をおりて結婚することはできないけど、来訪を前に、時間をかけて料理をたくさんつくってしまうほどには好きだ」と思う場面が切なかった。二人で暮らし、休みの日にともに出かけることだけが愛情表現ではない、ということは他の作品でも描かれている。理解されにくいけれど、愛情深い彼女の心の底に根を張るものに触れたとき、さらに切なさは増す。

 家族がいても、一人でいても、時折生まれる淋しさや切なさは、自分で抱えて生きていくしかない。それは決して、哀れなことではない。むしろその先の喜びをつかむための力になるのだと、本作は教えてくれる。

文=立花もも

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