「BTS」のテテも絶賛したNetflixドラマの原作『ナビレラ』。70歳の男が夢だったバレエに挑戦して得た年齢を超えた友情

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PR公開日:2023/12/15

ナビレラ
ナビレラ』(HUN:原作、JIMMY:漫画/ハーパーコリンズ・ジャパン)

 大人になったのだから、今はほかの仕事をしているのだから、もう昔の夢を追うことはできない。心の奥底にそんな気持ちを抱きつつ、毎日を過ごしている人は多いのではないだろうか。家族のために稼ぐ必要があり、夢を追いかける余裕がない人も多いだろう。今は仕方のないことかもしれない。ただ人生の終わりに叶えられなかった夢を思い出した時、後悔しないと言い切れる人はどのくらいいるのだろうか。

 Webtoon発の本作は、北米漫画界のオスカー賞と名高い「Eisner Awards」にノミネート、ボーイズグループ「BTS」のテテなど人気タレントも絶賛した。そして2021年、動画配信サイトのNetflixでドラマ化もされ、世界中の人に注目されることになった。タイトルは『ナビレラ』(HUN:原作、JIMMY:漫画/ハーパーコリンズ・ジャパン)で、12月に1巻・2巻が同時発売される。題材は高齢化の進む社会で注目を浴びている「シニアチャレンジ」だ。

 チャレンジをするのは70歳のシムさんである。友人の葬式に参列した彼は、友人が若いころカメラマンを目指しながら、家族のために断念したことを思い出す。それをきっかけに、自分は死ぬ前に再び昔の夢を追おうと決意をかためる。ずっとシムさんはバレエダンサーに憧れていたのだ。

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ナビレラ

 筆者自身は30代で、シムさんの半分くらいしか生きていないが、多感な高校生時代、ミュージカル部に所属していた。部活では自分に歌唱力があることを知って自信をつけた一方、部内でいちばんダンスが下手だという事実も突き付けられた。幼いころにダンス、特にミュージカルで生きるバレエを習っていない自分には限界があると悟った。ところが本作でシムさんは、70歳からバレエに挑戦しようとするのだ。

ナビレラ

 彼の家族は「その歳で始めることじゃない」と反対する。正直、私もシムさんの家族と同様に、ダンスは幼いころから始めなければ上達しない、ましてやシニア層が挑戦するにはケガをする可能性もあるのではないかと危惧した。家族なら世間体が気になるのも当然だ。しかしシムさんの決意はかたかった。幼いころに外からのぞいた、バレエ教室で踊る子どもたちの姿を、今もシムさんは鮮やかに思い出せるのだ。

ナビレラ

 カメラマンを目指していた友人は、夢を叶えられないまま人生の幕を閉じた。それがシムさんを突き動かす。シムさんの行動は早い。実際にバレエスクールに行って、渋る講師にバレエに対する熱意を伝える。その時に出会ったのが、もうひとりの主人公である、バレエダンサーのチェロクだった。

 チェロクはまだ23歳、既にプロのバレエダンサーであり、彼の前には広々とした未来が広がっているようにみえるだろう。しかしチェロクの父親は「男らしさ」をチェロクに求めていて、バレエではない「男らしい」スポーツをしてほしいと望んでいた。そのため、バレエダンサーであるチェロクを、チェロクの父親はかたくなに否定していて軋轢が生じている。シムさんもチェロクも理由は異なれど、バレエをすることを家族に反対されているのだ。

ナビレラ

 バレエ教室の団長もシムさんがバレエを始めることを最初は反対していた。70歳という年齢は、体が衰えていて若者よりも体力がないのはたしかであり、ケガをしないかという恐れもあったのだ。万一シムさんに何かあった場合、バレエ教室の責任が問われる。バレエ教室を担う仕事に就いていれば、それを危ぶむのは当然だろう。私が団長なら「ほかの若いダンサーのじゃまにならないか」というのも懸念点である。しかしシムさんの情熱は並大抵のことでは醒めない。根気強く自分の熱意を伝え続け、やがて団長からバレエを習う許可が出る。

 そんなシムさんを先輩として指導することになったのがチェロクだ。これが70歳と23歳、つまり47歳差という年齢差を超えたふたりの友情の始まりだった。

 とはいえ本作は安易なサクセスストーリーではない。シムさんは老いと向かい合いながらバレエのために体力を上げる努力を続け、チェロクはバレエをするかたわら、自活するために必死でアルバイトをしている。ふたりの困難がリアルに描写されているのも本作の特徴だ。しかしチェロクは、人生経験が豊富なシムさんによって、少しずつ変わっていく。

 学生時代のスポーツ仲間に馬鹿にされ、ずっと自分に自信を持てずにいるチェロクに、シムさんは人生経験を積んだからこそ実感の伴う言葉を口にする。

「どんな時人は惨めになると思う?」
(中略)
「自分で自分を惨めだと思った時だ」

(2巻 P.22、23より)

 ただ、そんなシムさんも完璧な人間ではない。夢だったバレエを始められて舞い上がっている一方、70歳である自分には時間がないと焦っているのだ。だからこそバレエは基礎の練習を地道にこなさなければならないと団長に叱られた時、とっさに言い訳をしようとしてしまったシムさんの言葉が印象的だ。

「つい…言い訳しようとしてしまった
間違ったことを素直に認められないなんて…
歳だけ食ってちゃいかんなぁ…」

(2巻 P.39、40より)

 70歳のシムさんと若いチェロクがバレエを通して新しい学びを得ながら絆を深めていく過程は、諦めないことの大切さを私に教えてくれる。

 ところがそんな希望をくつがえすように、2巻の終盤、ある事実が判明する。私たち読者は、読み進めるうちにシムさんに背中を押してもらえるかもしれない。たとえ何歳になっても、不可能だと思われることにチャレンジできる。シムさんは、年齢を理由にあきらめる理由なんてないと読者に教えてくれる存在でもあるのだ。本作が今後どのように展開するのか期待が高まる。

ナビレラ

文=若林理央

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