ラップを愛する言語学者が日本語ラップを徹底分析! 見えてきた「韻」のメカニズム

文芸・カルチャー

公開日:2023/12/22

言語学的ラップの世界
『言語学的ラップの世界』(川原繁人、他/東京書籍)

 最近ではかつて放送していたTV番組「フリースタイルダンジョン」などの影響で、日本でもすっかり定着したラップ文化。テンポよくリリックやライムなどを刻むラッパーの姿はカッコよく、憧れる。

 そんなラップ、ラッパーの世界を「言語学」の視点から読み解く『言語学的ラップの世界』(川原繁人、他/東京書籍)は興味深い書籍だ。学生時代から日本語ラップを聴いてきたという慶應義塾大学言語文化研究所教授・川原繁人氏がまとめた本書は、ほとばしる“ラップ愛”に満ちている。

 さて、ラップと言えば真っ先に思い浮かぶのがやはり「韻」を踏む技術だ。響きの似た言葉が次から次へと連続するリズムは心地よく、自然と気持ちも弾んでしまう。

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 川原氏はこの韻を徹底的に研究するべく、みずから3カ月以上もかけて98曲分の韻をテキスト化して統計的に分析したというから驚く。その結果、日本語ラップにおいては「似ている子音ほど韻をふみやすい」ことが分かったという。

 例えば、本書で引用されるラッパー・般若氏の『遠吠え』では「散る散る遠吠え」「生きると思え」のリリックがある。両者の末尾である「遠吠え」は「tooboe」、「と思え」は「toomoe」となるが、声に出してみると、ローマ字のスペルで後ろから3つ目にあたる「b」と「m」の響きが似ていると気が付く。

 このような仮説を証明するべく、川原氏は先に述べた98曲分のデータにもとづき、徹底的に登場頻度を分析した。

 詳細な研究結果を数多く紹介する中で、面白いのは「ちゃ、ちゅ、ちょ」と「きゃ、きゅ、きょ」の音は似ていて、韻を踏む上で、組み合わせの機会が多いという結果だった。

 言語学上でも、歴史をたどると「きゃ~」の読み方が「ちゃ~」に変化してきた事例は多いという。ラッパーも自然と響きが似た音を好み、リリックに韻として取り入れている。ただ、狙って組み込んでいるわけではなく、韻を踏む際、2つの音がどれだけ似ているかを無意識に知っているからだと、川原氏は付け加える。

 この他、本書ではアカデミックな観点から日本語ラップを多面的に分析。さらに、ラップ界をリードするTKda黒ぶち氏、晋平太氏、Mummy-D氏へのインタビューも収録している。現代のラップ史に繋がるヒップホップの歴史もたどっており、ラップを愛するすべての人にとっての入門書にもなりうる。

文=カネコシュウヘイ

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