世界中で人気拡大中の中華BL『千秋』、第2巻の発売迫る! イッキ読み必至のその魅力とは?

文芸・カルチャー

公開日:2024/1/6

 ※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2024年2月号からの転載です。

『千秋』1巻イラスト
(c)夢溪石/高階佑/Beijing Jinjiang Original Network Technology Co., Ltd./日販アイ・ピー・エス株式会社

 近年人気の中華BLの中でも、ひときわ注目度が高いのが『千秋』。描かれるのは、悪を信じる魔教の宗主×善を疑わない絶世の美男。相容れないふたりの関係性の変化はもちろん、権謀術数渦巻く権力争い、中国武術を駆使した戦いも見逃せない。読み始めたら止まらない、めくるめく『千秋』の世界へ案内しよう。

文:野本由起

 全4巻からなる武侠BL小説『千秋』は、中国の小説投稿サイトから火がつき、ラジオドラマや3Dアニメにもなったヒット作。英語版、タイ語版も出版され、世界に人気が広がる中、昨年9月から日本語版の刊行がスタートした。現在は第1巻が発売中だが、早くもBLファンの間で話題を呼んでいる。

 時は、斉国、周国、陳国が覇を競う南北朝時代末期。「天下一の道門」玄都山を司る武芸の達人・沈嶠は、突厥(モンゴル高原・中央アジアを支配したトルコ系遊牧部族)最強とされる昆邪との戦いに敗れ、崖から転落する。全身の骨が砕けるほどの重傷を負い、意識を失った彼は、偶然通りかかった晏無師によって九死に一生を得る。だが、晏無師は「魔君」と恐れられる魔教・浣月宗の宗主。武芸に関しては天性の才を誇るが、冷酷無比で非道な男だった。物珍しい玩具を手に入れた晏無師は、記憶と視力を失った沈嶠を謀り、魔教へと引き入れようと画策する。しかし、ある人物の暗殺に従わなかったことから、沈嶠は目も見えず武力も戻らぬまま、身ひとつで放逐されてしまう。

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 かくして玄都山を目指し、ひとり旅立った沈嶠。その無垢な心は悪意に晒され、時には信じた者から手ひどく裏切られることも。それでも沈嶠は慈悲深く赦し、善を信じ続けていく。一方、晏無師はそんな彼につきまとい、純白の心を黒く染め上げようと企てる。果たして沈嶠は悪にからめとられてしまうのか、それとも清冽な白さを守り切れるのか。善と悪の相克、火花散る両者の摩擦が見どころとなっている。

 BL的には、悪の魔王のような“攻“晏無師と、体が癒えずすぐに吐血する絶世の美人の“受“沈嶠のやりとりも見逃せない。儚くたおやかな沈嶠の手を取り悪辣な言葉を吹き込んだり、腰に手を回したりと、からかうように沈嶠を翻弄する晏無師。頬を赤らめながら、彼の手から逃れようとするうぶな沈嶠。その攻防に、ニヤニヤが止まらない。

 最初の数ページは人名や用語に戸惑うかもしれないが、そこさえ乗り越えれば一気読み必至。各国間の政争や玄都山の内紛、幻の書『朱陽策』をめぐる争いなど、策謀渦巻くドラマが二転三転し、読者を飽きさせない。中国武術を駆使し、時に掌から“真気“を打ち出し、時に刀を閃かせて戦う流麗なバトルシーンも息をのむ迫力だ。3月には第2巻の発売が控えており、ふたりの関係性、そして国や門派をめぐる争いにも新たな展開が。BL小説ファンに限らず、武侠ファンタジー、中国小説に興味がある人にもおすすめしたい一作だ。

沈嶠(シェンチアオ)

沈嶠(シェンチアオ)
「天下一の道門」として名高い玄都山を司る人物。誰もが目を見張るほどの美貌を誇り、内面もまた純真で一点の曇りもない真っ白な美しさを持っている。だが、突厥(モンゴル高原・中央アジアを支配したトルコ系遊牧部族)最強の呼び声高い昆邪との戦いで崖から落ち、全身の骨が砕けるほどの重傷を負うことに。さらに、記憶と視力、身に付けた武術も失ってしまう。そんな中、晏無師に救われるが……。

晏無師(イエンウースー)

晏無師(イエンウースー)
魔教のひとつ、浣月宗の宗主。10年にわたり外界を離れて修行を積み、再び姿を現した。その強さと美しく整った容貌からは想像もつかない非道ぶりから、「魔君」と呼ばれる。一方で、朝廷で太子に仕える太子少師の肩書も持っている。瀕死の重傷を負った沈嶠を拾い、救いの手を差し伸べるが、それも彼なりの思惑があってのこと。白紙のように純粋な沈嶠を、徹底的に黒く染め上げたいと考えている。

『千秋』より
(c)夢溪石/高階佑/Beijing Jinjiang Original Network Technology Co., Ltd./日販アイ・ピー・エス株式会社

『千秋』のここがいい!

紀伊國屋書店 横浜店 嶋田さん
梦溪石先生の『千秋』を日本語で読める日が来るなんて……。辞書を片手に読んでいたあの頃が懐かしいです。(呉聖華先生の翻訳、見事でした……)多くの方に手に取っていただきたく、輸入書も手配し発売前からより一層売り場づくりに気合いが入りました! 決して互いに染まることのない晏無師と沈嶠、彼らの今後の旅路をどうか見届けてください。

三省堂書店 名古屋本店 田中佳歩さん
壮大な世界観のなかで宗教や覇権争いが描かれ、まだ恋愛要素がほぼないのに十分おもしろいのだからおそろしい。非道で利己的な晏無師と純真で善良な沈嶠、とにかく美しく、相容れないふたりが今後どう近づいていくのか、想像が膨らみます。武侠小説ならではの武術を使った戦いや、背景の描写も魅力的です。一度引きこまれたらきっと『千秋』の世界にみんな夢中になるはず!

待望の第2巻が発売! 『千秋』第2巻 3月19日発売

通常版2310円 特装版6996円(ともに税込)
晏無師とともに、周国の帝・宇文邕に謁見した沈嶠。長安で玄都山の新たな流派を立ち上げないかと周帝に誘われるも、沈嶠はその申し出を退ける。そしてふたりは、宇文邕に遣わされ、君主に国書を渡すため陳国に向かう宇文慶の南下を護衛することに。道中、浣月宗と敵対する合歓宗の長老たちから襲撃されるも、彼らは無事に宇文慶を守り抜いた。その後、晏無師と別れ、玄都山の郁藹を追う沈嶠だったが、そこへ晏無師が再び現れ、彼をさらって合歓宗の桑景行に渡してしまう。桑景行との戦いで気を失った沈嶠を助けたのは、少年・十五とその師父。だが、沈嶠を追ってきた合歓宗の者たちに十五の師父が殺され、沈嶠は十五を連れて碧霞宗へ向かうことになる。因縁の相手・昆邪との再会、各国朝廷や三派に分かれた魔教の思惑、沈嶠と晏無師の相克。善悪とは、「千秋」とは何か。起承転結の“承”に差し掛かり、ますます目が離せない第2巻!

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