半グレを守る悪徳弁護士マンガ『九条の大罪』11巻レビュー。依頼者からカネを搾り取る悪どい弁護士や、新たなヤクザも登場!?

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公開日:2024/3/16

九条の大罪
九条の大罪』(真鍋昌平/小学館)

※本記事には若干のネタバレを含みます。『九条の大罪』10巻までを読んでいない方は10巻までの若干のネタバレがあることをご了承ください。

 闇社会と私たちの生きる社会。何が異なるのかと聞かれると、答えに窮する。

 悪徳弁護士を軸に闇社会を描く『九条の大罪』(真鍋昌平/小学館)では、介護施設で老人を苦しめ金をせしめる半グレ、虐待を受けて育ち悪人に利用され殺人に手を染める元アダルト女優、刑期を終えて出所したものの反省の色はなく、最後は仲間だと信じた男に裏切られる殺人犯などが登場する。私たちは、街のどこかで彼らとすれ違いながらも、互いの人生を知ることなく生きていく。そう思えてならない。

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 私はニュースを見て思う。「どうしてこんなに酷いことをした加害者を弁護する人がいるのだろう」。『九条の大罪』(真鍋昌平/小学館)の九条弁護士はまさに「酷いことをした加害者」でも弁護を断らない、悪徳弁護士だ。

 彼はなぜ「いつか弁護士バッジが飛ぶ」と同業者に噂され、時に自らが危険な目に遭っても、加害者の弁護を断らないのだろうか。理由は1巻の序盤に明かされている。彼は“法律と道徳”を分けて考えており、弁護士は思想信条のない職業だととらえているのだ。ところがそんなある日、九条に頼っていた半グレの大物、壬生(みぶ)に裏切られるかたちで九条は逮捕される。拘留中、黙秘を貫いた九条は、釈放後すぐに壬生と再会をする。そこまでが10巻のあらすじだった。

 詳しくは本作を読んでほしいが、壬生の裏切りに見せかけた行為は、九条をヤクザの言いなりにさせず、守るためだった。ヤクザは人を利用したあげく命を奪うこともある。そうなる前に九条を逮捕させ、壬生を信頼していたヤクザの京極を実刑付きの犯罪者にまで追い込んだのだ。そして京極もまた、壬生以外の人間から裏切られる羽目になる。この「壬生以外の人間」こそが、11巻で登場する重要人物のひとり、ヤクザの宇治(うじ)だ。彼は昔から壬生と縁がある。11巻では壬生の味方のように見えるが、組員たちがヤクザに、いわゆるなめた真似をした壬生を探しているなか、宇治は壬生と連絡をとって、組長や組員に対しては壬生の行方を知らないふりをしている。壬生の本当の目的は何なのか見えてこない。ただ組すらも操る頭の良さが強調されている。

 また、拘留中、九条の心境は変化した。ここは10巻と11巻、両方の見どころである。拘留中の20日間、九条は自分を敵視する刑事の追及に耐えて黙秘する必要があった。しかしいつもは毅然とした態度の九条でも、何度も心が折れかけるほど拘留中の尋問は苦しいものだった。私は黙秘を貫く加害者の記事を読むたび「早く話してほしい」と思うが、追及を黙秘で貫くのは、逮捕されたのが法律を熟知している弁護士でも厳しいものなのだ。拘留中、九条は過去の辛い出来事を思い出す一方、自分の法律事務所の元アソシエイト弁護士で今は独立した烏丸弁護士が面会に来て話を聞いてくれることに希望を見出す。九条は「自分が弁護した人たちもこのような気持ちだった」と気づきを得るのだ。

 そして新章が始まる。まずは腐敗した医療業界の闇がテーマだ。ここに絡むのは依頼者からカネを搾り取ることにかけては天才的な弁護士の相楽(そうらく)である。相楽の依頼主は、新型コロナ患者を受け入れると言い国からの補助金をもらいながら、その実病床使用率をゼロにしていた言わば悪徳医院長の白栖(しらす)である。白栖の味方のふりをしながらも、陰では、自分の儲けのために白栖をより炎上させ陥れるようなことをしている。よく考えると九条のような依頼者のために全力を尽くす弁護士を「悪徳」と呼び、依頼者を裏切る守銭奴の相楽を「悪徳」と言わないのが不思議なのだが、見方によって呼び方は大きく変わってしまうのだろう。

 面白いのは私のような医療の素人の知らない、医療業界の闇が暴かれるシーンだ。身近にいる医療者に聞いたところ、描いてあることは偽りではなく、現在、医療業界でも問題になっていることだそうだ。作者の取材能力に圧倒される。

 さて、白栖院長のほか、彼の息子で同じく医者の兄弟と、その妻たちが登場する。息子たちは医療に対する夢を語りながらも現実を直視しておらず、その妻たちは承認欲求にとらわれていて、それぞれに問題がある。これまで読んだエンターテインメント作品なら、この医師の一家は破滅へと向かっていくのがセオリーだ。

 しかし彼ら以上に目が離せないのは、九条と異なる意味での悪徳弁護士の相楽、類まれな聡明さを持つヤクザの宇治、そして前章から九条と深く関わっている半グレの壬生の存在だ。宇治と壬生は医療業界編に関わるのかまだわからないが、11巻では同業である相楽と九条の対立を予期する終盤が待ち構えている。

『闇金ウシジマくん』と『九条の大罪』で、闇金業者と悪徳弁護士という、異なる立場から闇社会を見せてくれた作者だ。10巻までと11巻からの新章で物語はどのように変化するのか、期待が止まらない。

文=若林理央

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