子を「産まない」選択をした人々の思いと生き方。「産んだ、産みたい、産めない、産まない」全ての女性たちを尊重する1冊

文芸・カルチャー

公開日:2024/3/22

母にはなれないかもしれない――産まない女のシスターフッド
母にはなれないかもしれない――産まない女のシスターフッド』(若林理央/旬報社)

母にはなれないかもしれない――産まない女のシスターフッド』(若林理央/旬報社)。「子どもは産まない」と決めた人生を送る著者・若林理央氏による「子どもを産む・産まない」にまつわる様々な考えを紹介する一冊です。若林氏の半生や、子どもを持つことについて6人の女性に話を聞いたインタビュー、文筆家・石田月美さんのコラムと作家・佐々木ののかさんとの対談が掲載されています。

 小さい頃からずっと「子どもは産みたくない」と考えていたという若林氏。それを人に伝える度に「産めばかわいいよ」「日本の将来を考えないの」など様々な言葉を投げかけられ、傷つくことも多々あったそう。そんな中で、この本が産まない選択をしている、またはしようとしている人の支えになれば嬉しいと著者は語ります。

 筆者自身は子持ちの30代。友人の中には子どものいない人もいますが、その人に対して「もしかしたら子どもを産みたいのに産めないのかもしれない」という前提での配慮はしていても、「子どもを産みたくないのかもしれない」とは考えたことがありませんでした。以前に女優・山口智子さんが女性誌で語ったことから「子どもを持たないことを選択する方もいる」というのはもちろん知っていましたが、自分の身の回りの出来事と捉えていなかったのかもしれません。

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 本書に登場する「産まない」を選択した女性たち。「現在のキャリアを途切れさせたくないから」「母親から『恋愛も結婚もしないで生きて』と言われたことに影響を受けたから」などその理由は様々です。

 しかし私が一番印象に残ったのは、特に理由はないという方のお話です。「子どもを産まない理由を聞かれた時に準備している答えはあるけれど、実際は幼い頃から自分が子どもを産むなんて思ってもいなかったってことがいちばん大きい」と語る部分に大きな衝撃を受けました。なぜなら、私は誰かから「妊娠した」という報告を受けた時に「どうして子どもを産もうと思ったの」とは聞いたことがないのに、「産まない」選択をした背景には必ず理由があるはずだと思い込んでいることに気づいたからです。「産む・産まないは本人の自由である」と理解しているつもりが、少数派の選択をした場合には必ず何かしらの理由があるはずと特別視していた自分に気づきました。

 ほかにも不妊治療を経て「産まない」人生となった方、現在子どもはいるけど「時間を戻せるなら産まない」と語る方、多くの立場の女性が登場します。

 本書の願いは「産んだ、産みたい、産めない、産まない女性たちが分断せず、お互いの異なる考え方や価値観を認め合うきっかけ作りをする」こと。「子どもを産むことが女性の幸せ」と人々が悪気なく口にした時代は終わりつつありますが、SNSには子持ち・子なしどちらの立場にも否定・中傷する言葉が見られます。多様な価値観の存在を認める社会への、まさに過渡期を生きる私たち。本書には「どうすればお互いを理解できるか」という質問に佐々木氏が「理解できなくてもいいのではないでしょうか?」と答える場面が登場するのですが、まさに今重要なのはお互いへの理解ではなく、認知と尊重。それぞれの立場を認め尊重することが、自分自身の生きやすさを守ることへ繋がるのだと本書を読んで感じました。

 普段隣にいてもなかなか聞けない多くの女性の生の声が集まった、貴重な一冊です。

文=原智香

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