“現代版ももたろう”のような絵本に学ぶ「ピンチに立ち向かう心」。『大ピンチずかん』鈴木のりたけさんも推薦!

文芸・カルチャー

公開日:2024/4/24

きゅうしょくたべにきました
きゅうしょくたべにきました』 (KADOKAWA)

 人を痛めつける怖いもの、というイメージがある鬼。それがもし、「給食」を食べようとする食いしん坊な鬼だったなら……? 絵本作家・シゲリカツヒコさんの新作『きゅうしょくたべにきました』 (KADOKAWA)は、鬼に奪われそうになった給食を、子どもたちが力をあわせて取り戻そうとするストーリー。今作でも、作者ならではの奇想天外な物語と緻密なイラストが健在です。

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みんなが大好きな「給食」。一番人気はシチュー!

(p3-4)

 きっかけは、1枚の献立表でした。学校の給食が大好きなヒロトが道ばたで献立表を広げて眺めていると、ピューッと強い風が吹いて献立表が空のほうに舞い上がり、どこかへ消えてしまいました。

 数日が経ち、クラスでいちばん人気のシチューが給食に出る日。ヒロトが学校へ行くと、なんと、下駄箱から可愛らしい小鬼が顔を出しました。風に飛ばされたヒロトの献立表を拾ったのは、雲の上にいた小鬼だったのです。小鬼は雲の上で鬼の食事をつくっているのですが、その食事の人気がなく、みんなが残すので困っていたようです。そこで、「シチュー」という美味しそうな給食を食べるため、ヒロトたちのところへやってきたのでした。

いつもの学校に鬼がやってきたら…?

(p13-14)

「4時間目が終わったら給食」。ヒロトは教卓のなかに隠れた小鬼にそう伝えて、運動場へと出ていきます。そのとき、教室では大変なことが起きていました。黒板にぼこぼことヘンな形が浮き出てきたのです。よく見るとそれは、ツノが生えた恐ろしい鬼の頭や、可愛らしい小鬼たちのお尻で…。

 当たり前にある日常風景のなかに浮かび上がる、奇妙な違和感。これこそが、シゲリカツヒコさんの絵本の面白さ。普段見ているはずの現実が、ありえないシチュエーションへとじわじわと形を変えていきます。ふと気づくと、心は日常と非日常が混ざり合う摩訶不思議な世界へとダイブ。子どもたちは、毎日過ごしている学校の延長に鬼の棲む世界があるのかもしれない…というワクワク感と恐ろしさを同時に感じるのではないでしょうか。

「あいさつ」ができると、いいことがあるかも

(p21-22)

 給食室から盗まれたシチュー、給食室のまわりについた大きな足跡…。その足跡を辿ってシチューを盗んだ犯人を探る子どもたちは、なかなかかっこいい。足跡を辿った先の校庭には、シチューの入った鍋を抱えて「いただきまーす!」とあいさつをする鬼の姿が! 大好きなシチューを鬼に食べられるかもしれない大ピンチです。鬼は目をつぶったまま両方の手のひらをぴったりとあわせており、怖そうな見た目の割に、礼儀正しい!? 給食を前にした小鬼たちの表情は嬉しそうで、“給食が楽しみなのは鬼も一緒なんだね”と親近感が湧いてしまいます。

 給食が美味しいのはわかる。だけど、僕たちのシチューを食べられるのはつらい! という様子で、ヒロトたちは鬼を撃退するべく立ち向かいます。みんなが知っている鬼といえば、豆まきの鬼や、おとぎ話のなかに出てくる鬼。怖いけど、どうしたら鬼を退治できるのかを必死に考え、大きくて強そうな鬼に立ち向かう子どもたちの姿はやっぱりかっこいい。結末には、「あいさつをするといいことがある」「あいさつができるのはかっこいい」と感じられるような展開が待ち受けています。

ピンチがあっても柔軟に対処する方法って?

(p23-24)

 ピンチに立ち向かう対処力は、これから大人になる子どもたちに身につけてほしい力のひとつ。困ったときは友だちと力をあわせてもいいし、うまくいかなくても、どれだけ相手が強敵でも、挑戦してみないとわからない。そのためには、まずは考えて行動に出ようという勇気や考え方を、子どもたちはヒロトたちの姿から感じ取ってくれるのではないでしょうか。

 それにしても、怖~い鬼たちが人間界に降りてきた理由が、給食を食べたいからだなんて…! 大切な給食を取り戻すため、子どもたちらしい発想で鬼に立ち向かう姿は頼もしく、現代版の『ももたろう』を見ているよう。気づいたら大人も親心で見守っていました。

『大ピンチずかん』の作者である鈴木のりたけさんも大好きだという、シゲリカツヒコさん。鈴木氏は本書でも「愛おしさ、怖さ、微笑ましさ、爽快感。絵の中に全部があります」と太鼓判を押しています。1ページの絵のなかには色々な遊びが入っていて、目を凝らして見れば見るほど新しい発見が。本の見返しには、雲の上にいる鬼たちの様子がわかる可愛らしい仕掛けも…。手元に置いて、親子で何度も読み返したくなる絵本です。

文=吉田あき

◆書誌情報『きゅうしょくたべにきました』
https://yomeruba.com/product/322303000738.html

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