自然にできると思っていた。矢沢心・魔裟斗夫妻が歩んだ、4年間の不妊治療

出産・子育て

公開日:2018/3/24

『夫婦で歩んだ不妊治療 あきらめなかった4年間』(矢沢 心・魔裟斗/日経BP社)

 望んでいるのになかなか子供を授かることができず、悩む夫婦が増えている。最近では、不妊治療をしていることを公表する芸能人も珍しくない。避妊せず、通常の夫婦生活を送っているのに1年経っても子供ができない…。一般的には、この症状を「不妊症」と定義づけるのだそうだ。

 自分は不妊症かもしれない、と思っていても、病院に行く一歩が踏み出せない人もいるだろう。治療はしているけれどなかなか成果が出ず、悩んでいる人も多いはずだ。そんな人々に前に進む勇気を与えてくれる1冊が、『夫婦で歩んだ不妊治療 あきらめなかった4年間』(矢沢 心・魔裟斗/日経BP社)。

 共働き子育てノウハウ情報サイト『日経DUAL』に連載された著者の記事、「矢沢心と魔裟斗の『諦めない不妊治療』」に加筆・修正後に出版された。現在2女の父母である矢沢心さんと魔裟斗さんが、長女を授かるまでの4年に及ぶ不妊治療の日々と当時の心境について交互に語っていく。

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 18歳の時に排卵障害の原因のひとつとなる病気、「多嚢胞性卵巣症候群」と診断された矢沢心さん。それでも「赤ちゃんは自然にできるもの」というイメージを持っていたそうだが、避妊をやめて1年経っても授からず、病院で検査を受けたことから不妊治療との戦いの日々が始まる。

 矢沢さんが体外受精のために最初に選んだのは、通院しやすく、相談しやすい女医さんが診察してくれる病院。しかし、麻酔や針が身体に合わず、採卵のたびに激痛が彼女を襲った。しかし、その後転院した病院では採卵の際に麻酔を使用せず、針も細かったため痛みはほとんどなかったという。結果的にこの病院で矢沢さんは第1子となる長女を授かる。身体的にも精神的にも負担がかかることになる不妊治療。お世話になる病院の薬や治療方針がいかに重要かを考えさせられた。

 また、夫妻の不妊治療の成功は、相性の良い病院に巡り合えたことに加えて夫の魔裟斗さんの協力によるところも大きい。不妊の原因が男性側にあることも珍しくないにもかかわらず、検査のために病院に行くことを拒むなど、治療に積極的でない夫は多い。事実、魔裟斗さんも不妊治療を開始してしばらくは真剣に子供が欲しいとは思っておらず、妻ほど治療に前向きになれなかったという。その意識が変わったのは、矢沢さんが流産した時だ。

 流産して落ち込む妻に「もう子どもはいいんじゃないか」と魔裟斗さんが声をかけると、矢沢さんはこう言ったそうだ。

「私は、あなたの遺伝子を残したい。だから、子どもを諦めることはできない。授かるためだったら、どんな治療でもする」

 この言葉で妻の覚悟を知り、魔裟斗さんは不妊治療に本気で取り組むことを決意。抵抗があったクリニックでの診察も、実際に経験してみるとさほどハードルが高くなかったそうだ。不妊治療の体験について夫の視点で綴られる本がほとんどない中、魔裟斗さんが本書で語った「男の意見」には大きな意味があるように思う。

 本書には、37歳で不妊治療を始めた女性の「不妊治療Q&A」や、監修者のレディースクリニック院長による「不妊治療を巡る現状と今後」の解説も掲載されており、不妊治療のことを知りたいと思う人にとって読み応えのある内容になっている。

 ゴールが見えない治療期間、不安定な気持ちになることもあるだろう。しかし、著者が本書で語っているように、人にはそれぞれ“授かり時”がある。夫婦で真剣に治療に向き合った先に見えてくるものもあるに違いない。子供が欲しいと願う夫婦が一歩踏み出すきっかけとなるだろう。

文=佐藤結衣