デジタル時代を生き抜く「PR思考」でヒットを狙え! みんなが「伝えたくなる」最強メソッド

ビジネス

公開日:2018/4/16

『PR思考』(伊澤佑美・根本陽平/翔泳社)

 日常よく使う“PR(ピー・アール)”とは、本来的には“Public Relations(関係づくり)”の略だが、企業の広告宣伝の一専門分野、と捉えている人は多い。商品・サービスなどの情報をメディアに提供し、それがニュースとして掲載・放送されれば、CM制作も広告枠も不要になると考え、PR目的で、メディアに対して自社情報を提供する、という話はよく耳にする。

 しかし、メディアに自社情報を提供しさえすれば、あるいはその結果、メディアで取り上げられれば、自社のPRにつながるのだろうか。どうも答えはNOらしい。「メディアに情報を提供し、ニュースになりさえすれば、自社のPRにつながる」という従来の考え方とは一線を画し、デジタル時代に要求される新たなPRメソッドを提唱するのが、本書『PR思考』(伊澤佑美・根本陽平/翔泳社)だ。著者は電通グループのPR会社、電通パブリックリレーションズのPRプランナーである。

 本書では、「メディアに対して自社情報を提供し、ニュース化を狙う」という限られた範囲のメソッドではなく、PRの根源的な考え方を、企業活動や商品・事業開発などに活かすためのメソッドを紹介している。

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 本書のタイトルにもなっている「PR思考」とは、「企業(自社・自ブランド)の発言や行動に対し、世の中がどう反応するか」を考え、「人やメディアが伝えたくなる要素」を、あらゆる企業活動や商品・事業開発に盛り込むための思考法である。

 その「人やメディアが伝えたくなる要素」の種こそ、“私”(企業)と“あなた”(顧客、株主、従業員ら)との“接点”にあるという。本書では、接点探しのツールとして“SWOT”の新しい活用法を提案している。“SWOT”とは、元来、強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)、から戦略を考えるメソッドだが、それぞれ“私”の自負、自虐、“あなた”の関心、問題、と置き換えることで、接点探しにより活用しやすいという。

 見つけ出した“私”と“あなた”の“接点”を、人やメディアに提供した際、彼らが他の誰かにさらに伝えたくなる要素をきちんと含んでいるかを検証することも大切だ。それには、“PR IMPAKT®”でチェックすることを促す。IMPAKTとは、I(Inverse)逆説、M(Most)最上級や初、独自、P(Public)社会性、A(Actor)役者、K(Keyword)数字やキーワード、T(Trend)トレンドの6つの視点である。たとえば逆説は、”炭酸飲料なのに特定保健用食品(トクホ)”であるとか、最上級は、“世界一”や“これまでなかった”など。キーワードは、“xx系”や“ xx活”“xxガール”などがおなじみだ。

 さらに、検証の際には、人がソーシャルメディアでつぶやきやすい要素が入っているかも考えるべきだという。人がソーシャルメディアでつぶやくのは、何かしらの感情を抱いた結果であるからだ。この引き金となる感情を、YouTube動画の分析・分類から10種に分類した。それが、“感動”“胸熱”“信じられない”“爆笑”“カッコイイ”“カワイイ”“ヒドイ”“啓発”“物議をかもす”“セクシー”で、“感情トリガー”メソッドと名付けている。事例には、資生堂の“メーク女子高生のヒミツ”らが紹介されている。これは、女装男子が登場するオンライン動画だが、見た人の、信じられない、物議をかもす、カワイイなどの感情を喚起することで、資生堂はメークが持つ力を伝えることに成功したという。

 また、大ブームとなった、ピコ太郎の“PPAP”がミュージシャン、ジャスティン・ビーバーによって火がついたことは、皆がつながるネット時代に起きた奇跡として有名な出来事だ。これは、デジタル時代において、インフルエンサー、つまり影響力のある人とのつながり作りが重要である証左だという。

 しかし、奇跡を待つだけではもったいない。インフルエンサーがフォローしているようなメディアへアプローチすることで、つながりを生むきっかけになる可能性があるという。ちなみに、“PPAP”は、あるブログメディアで紹介されたのが、ジャスティンに届くきっかけになっているとのことだ。

 つまり、企業と、コミュニケーションをとりたい相手(コミュニティ)との関係構築そのものが、PRであり、その“ハブ”となるのがソーシャルメディアを含むメディアであり、人なのだ。長年、PR業界を牽引してきた同社のPRプランナーが、このPRのノウハウを余すところなく紹介した本書は、大企業だけではなく、中小企業から個人まで、活用できることは間違いない。広報部のような、いわゆる従来のPR担当だけでなく、経営者や商品・事業開発担当などにも参考になるだろう。

文=八田智明