すれ違い百合コメディ! 地下から武道館を目指すアイドルとオタクたちの軌跡

マンガ

更新日:2018/5/21

『推しが武道館いってくれたら死ぬ』(平尾アウリ/徳間書店)

 ここまで来られたのは、ファンのみなさんのおかげです――。テレビや雑誌でよく聞くアイドルたちのこうした感謝の言葉を、私は今までどこか“綺麗事”のように思っていた。しかし、地下アイドルとファンの関係を描く『推しが武道館いってくれたら死ぬ』(平尾アウリ/徳間書店)を読み、その考えを改めることになる。応援してくれるファンがいなければ、アイドルは存在することさえできないのだ。

 岡山県で活動する7人組アイドルグループ「ChamJam」は、毎回定期公演に来てくれる固定ファンこそいるものの、なかなか売れないマイナー地下アイドル。いつも後列で踊っている人気最下位のメンバー・舞菜には、全収入を彼女に捧げる伝説の女オタク・「えりぴよ」がいた。「舞菜が武道館いってくれたら死んでもいい」と言い切る「えりぴよ」は、いつも舞菜の握手券付きCDを買い占めているが、握手をするときの舞菜がいつも塩対応(反応がそっけないこと)であることに悩んでいる。一方の舞菜は、どうやら「えりぴよ」に特別な感情を抱いているようで、その不器用さ故に彼女とうまく話すことができないでいる…。

 本書は、そんなふたりのすれ違い百合コメディを中心に、アイドルを追いかけるオタクたちのさまざまな愛のカタチや、いつ解散するかわからない地下アイドルの儚さ、そしてアイドルとファンが一体となって武道館を目指す姿を描いた群像劇だ。

advertisement

 4巻では、「ChamJam」のセンター・れおにスポットが当てられる。彼女は、かつての所属していたグループが“解散”してしまった経験を持ち、人一倍グループ存続への思いが強いアイドルだ。「ChamJam」は、今回はじめてアイドルフェスに参加することになるが、そこには、かつてれおと同じグループにいた「めいぷる♡どーる」のメイがいた。他のアイドルたちとの人気の差をまざまざと見せつけられる中、れおはセンターとして「ChamJam」を支えていくことができるのか…?

 努力は報われるとは限らない。武道館までの道のりは険しい。だからこそ、そんな世界でもがき苦しみ、上を目指そうとする彼女たちを“推し”たくなるのだ。

文=中川 凌