今年「ABMORI」でふるまわれる海老蔵カレーの原点はここにあり!

暮らし

2018/6/22

『成田屋の食卓』(堀越希実子/世界文化社)

“食”は人の人生を彩る大切なもの。生命や健康維持のためのみならず、人は“食”を通して四季のうつろいや文化を知り、つくり手の思いを感じとりながら心も成長させてゆく。

 歌舞伎俳優の市川海老蔵氏による、毎年恒例の植樹プロジェクト「ABMORI(えびもり)」。今年は6月24日に長野県で開催され、参加者1000人に海老蔵氏お手製のカレーライスが振る舞われることがブログで明かされている。先日はカレーを試作する様子がアップされ、ファンも期待を寄せている。

 海老蔵氏のSNSには、開始当初から日々の食の画像がちりばめられてきた。家族や自分の好きな食べ物に注がれるあたたかな視線には母・堀越希実子さんが食卓を大切にしてきたことの影響が感じられ、その実際は、希実子さんの著書『成田屋の食卓』(堀越希実子/世界文化社)を通じて知ることができる。

 本書は、正月の稽古場に飾られる伊勢海老があしらわれたダイナミックな鏡餅の写真から始まる。春夏秋冬の食の臨場感。ぱらぱらとめくっていくと、新鮮な旬の牡蠣やまぐろ、とろりと濃厚そうなビーフシチューやロールキャベツの料理写真など、歌舞伎役者・十二代目市川團十郎氏が好んだ味の世界が視界に広がり、心を躍らせる。

 希実子さんが團十郎さんとふたりで築き上げてきた成田屋のしきたりや心づくし、食卓風景が歳時記のように綴られていて、第五章「成田屋の食卓」には【子どもたちが好きな味 カレー】の項がある。堀越家のカレーはチキンカレーと中華味の二種類あるのだそうだ。そして当時家族の一員となったばかりの、在りし日の小林麻央さんについても、こんな記述がされている。

“チキンカレーは息子が大好きなもの。麻央ちゃんにも作り方を教えました。カレールウは使いません。骨付きの鶏肉、ガラムマサラ、ターメリック、チキンスープで作ります。なんといっても時間がかかるのが刻んだたまねぎを炒めること。よく「飴色になるまで」と表現されていますけれど、それでは足りません。まず、こげ茶色になるまで炒めて、そこにガラムマサラ、ターメリック、強力粉を加える。そこからさらに炒めて鶏ガラスープを入れると、サラサラのカレーになります”

 手をかけた料理は家族から「もう一度食べたい」とせがまれる。希実子さんは“料理をやっている人間にはいちばんのほめ言葉”“食べる人の顔が見えるから料理は手抜きできません” と、時間も気持ちもかけて、材料の吟味や下ごしらえからじっくりと注力してきた。

麻央さんも子どもたちに伝えたかった、受け継がれてきた味と思い

 そんな希実子さんの心構えは、麻央さんにもしっかりと伝わっていたようだ。

“麻央ちゃんは息子と結婚してからずっと「健康にいいものを食べさせる」と頑張ってきました。息子も麻央ちゃんの言うことを素直に聞いて、外食よりもうちの食事を大切にしているようです”

 麻央さんは野菜をもちいて自分なりに工夫をし、特に天ぷらやサラダは絶品だったという。子どもたちが好きなハンバーグやミートソースをつくるときにも必ず、野菜サラダやラタトゥーユを付け合わせにつくっていたそうだ。

 生前の麻央さんを通じて、海老蔵氏や麗禾ちゃん、勸玄くんに少しずつ伝えられていた成田屋の食卓。そして、その役割を今は海老蔵氏が担っている。“健康にいいものを食べさせる”“うちの食事を大切にしている”という言葉からは、SNSで見かける、おかずが並ぶ朝食を前にちいさな手をあわせる勸玄くんの姿が思い浮かぶ。

 希実子さんは本書の中で“夫も自分も伝統を守りながら、そこに自分なりの工夫を入れていた。料理も同じで、成田屋の食卓も自分が伝えたものに次の人が工夫を加えてほしい”と語っている。

 もし今、麻央さんがいたら、堀越家の食卓はどんな料理で彩られていたのだろうか…。本書の巻末には、紹介された料理のレシピが掲載されている。実際につくって、食卓に並べて、味わってみることで、大切な家族と一緒に食べる何気ないごはんのありがたみを再確認することができるのではないだろうか。思いのこもったおいしい料理が並ぶ食卓は、人にまた新たな力をさずけてくれる。

文=タニハタ マユミ

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