まさか自分が「W不倫」にハマるとは…“本当の恋”に出会い、翻弄されるママたちの不倫事情

文芸・カルチャー

2018/8/12

『ロンリネス』(桐野夏生/光文社)

 幼い頃「大人」は、スーパーマンのように何でも完璧にこなす存在に見えていた。

 だが、歳を重ねて実感する。彼らとて、本当はそんなに強くない。多くの人が、寂しさを抱えたまま生きているし、自分のことをわかってほしいと願っているような気がする。

 結婚した、子供が産まれた――。それは確かに特別なことだが、人生の新たなステージに進んだがゆえの「孤独」というものも確かにある。どこまでいっても満たされない心を持て余し、気が付いたらとんでもない所へ落ちていた……! そんな風にはならないようにしたいが、欠陥だらけの人間ゆえ、「絶対に大丈夫」とは言い切れないのが怖いところだ。

 桐野夏生の『ロンリネス』(光文社)は、東京湾岸のタワマンを舞台に、孤独を抱えるママたちの「不倫事情」が描かれた小説である。本作は、2013年に発売された『ハピネス』の続編。前作では、タワマンに暮らすセレブなママ友界の裏側やヒエラルキーが暴かれていたが、今作で描かれるのは激しい「不倫愛」だ。

 夫がいて子供もいる女性が「本当の恋」に出会い、翻弄され、傷付き、それでも大胆に生き抜く様が、息もつかせぬような激しい筆致で描かれている。

 物語は、『ハピネス』の2年後から始まる。タワマンに暮らす岩見有紗は、海外への単身赴任中に浮気をしていた夫・俊平とのトラブルを乗り越えたかに見えたが、心の内では彼のことを許せないままだった。娘の小学校受験を真剣に考えないことや、第二子が欲しい有紗の希望を拒絶したことで、二人の溝は深まる一方だ。

 そんな時、有紗は同じマンションの階下に住む妻子持ちの高梨と出会う。以前、高梨家のバルコニーに誤ってシャベルを落としてしまったことで、きつく非難され、あまりいい印象がない男性だった。だが、偶然飲食店で遭遇し、話をする中で、感情の濃淡が激しいものの、正直で、情熱的に愛をささやく、夫とは正反対の彼に惹かれていく。

 一方、有紗の親友で、タワマン暮らしではなく、庶民的な生活を送る「美雨ママ」こと洋子は、大変な事態に陥っていた。前作で、仲良し5人組のママ友の代表格である「いぶママ」の夫とW不倫をしていた彼女だが、その関係を周囲に知られ、笑い物になっていた。

 婿養子同然の美雨ママの夫も逆上し、妻を殴り始めるのだが、二人の愛はますます燃え上がる。その結果、いぶママといぶパパは別居し、いぶママは周囲のママ友を巻き込み、静かな怒りを爆発させる。事態は想像を絶する最悪の展開へと進んでいくのだが……!?

 続編である本書も、女の見栄とプライドと、ままならない愛が鮮烈に描かれている。

 タワマンでは他のママ友とは違い、分譲ではなく賃貸暮らしで、子供は保育園に預け、パートをしながら生活しているため、小学校受験が現実的に厳しい有紗。

 夫婦仲にも溝があり、思い通りにならない日常の救いとなったのは、自分がまさかハマるとは思っていなかった「W不倫」だった。

 妻のいる男に恋をすることは、褒められたものではない。だが、登場する誰も彼もが、孤独で、他人には打ち明けられない深い悩みを抱えていたのが強く印象に残っている。

 有紗は言う。

子供は命よりも大事な存在だけれど、孤独を埋めてくれるわけではない。大人の女には、もっとそばにいてくれる誰かが必要なのだ。

 彼らは、「本当の恋」と信じるものに出会い、嘘を吐き続ける覚悟をし、一線を越えていく。抗えない恋の魔力にハマり、信じられない決断をする。

 たどり着く先は、地獄か、それとも天国か――。むき出しの欲望と深い孤独に、心がかき乱される。歪んでいるが、激しい愛の物語に目が逸らせなくなる。ぜひ読んでみてほしい。

文=さゆ