涙ってどんなにおいがするの? 心で泣く人を嗅ぎわける猫と美味しいものに癒される

マンガ

更新日:2018/11/5

『夜廻り猫』4巻(深谷かほる/講談社)

 今週も1週間お疲れさまでした。いいことがあった人もいれば、まだまだしんどいことが続いている人もいるでしょう。本稿では、そんな皆さんにそっと寄り添ってくれる『夜廻り猫』4巻(深谷かほる/講談社)を紹介します。愛らしい猫たちと、じんわり温かみのある画風が特徴的なこの作品は、ツイッターで話題になり書籍シリーズ化。巻頭カラーイラストや、全編に書き下ろしのイラストが追加され、さらなる人気を呼んでいます。

■大丈夫、料理は気持ちが大事

 主人公は「泣く子はいねが~」と、夜な夜な街をパトロールする夜廻り猫・遠藤平蔵をはじめとする猫たち。遠藤の鋭い嗅覚は、実際に涙を流して泣いている人だけではなく、心で泣いている人まで嗅ぎつけるほどです。

 ある日、遠藤はスーパーで買い物をする女性から、涙のにおいを嗅ぎ取ります。女性は、同居中のパートナーに旬のサンマを食べさせたいと思っていたのに、サンマは既に売り切れ。よくよく聞くと、パートナーは、シングルマザーに育てられ、時間的に家族で過ごす余裕がない環境で、“旬の魚を焼いて食べる”という食事の楽しみを知らないまま育ったのだといいます。ふとしたきっかけからそんな生い立ちに気づいた彼女は、「これからは私が、飽きるほど魚を焼いて、この人を幸せにしてあげるんだ!」と意気込んでスーパーに向かったのに…というわけです。

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 そんな女性に遠藤は「大丈夫、料理は気持ちだ」と伝え、代わりにサンマの蒲焼缶詰を使った料理をアドバイスします。サンマの蒲焼きをフライパンで焼き、醤油をたらし、汁ごとご飯の上にのせ、ネギと卵と七味をトッピングするというお手軽なもの。旬の焼きサンマでこそなかったものの、気持ちがこもった料理は、パートナーに喜ばれます。女性は遠藤へのお礼に、サンマの蒲焼入りおにぎりをプレゼント。遠藤はそれを食べずに持ち帰り、仲間の猫たちと分け合うのでした…。

■涙を流す人にそっと寄り添ってくれる存在

 遠藤が、夜廻り中に出会う人たちが抱える心情や悩みは本当にさまざまです。子育て中の母親が泣き止まない子供を前に途方に暮れていたり、母親を亡くした男子が時間が経つにつれて母親の記憶がなくなっていく寂しさを感じていたり、はたまた、一人暮らしの男子が一念発起して作ったおでんが不味かった…というものまで。遠藤は、そんな人たちの話をそれぞれ丁寧に聞き、寄り添います。抱えている問題が解決しないこともありますが、とにかく寄り添い、気持ちをほぐしてあげるのです。

 飼い猫ではない遠藤は、毎日自分で食べ物を探さなければなりません。ほぼいつでも空腹です。そんな状態でも遠藤は、心で泣く人たちのために夜廻りを続けます。本書内では、遠藤に寄り添ってもらった人たちが、遠藤の空腹に気がつくだけの心の余裕が生まれ、一緒に食事をする場面も数多く登場します。その食事は、豪華なものではありませんが、相手を想う気持ちがこもった、滋味あふれるもの。お金では買えない、最高のグルメといえるでしょう。

文=水野さちえ