家族間殺人事件の当事者――心に傷を抱えた少年と“あやかし”の成長物語 『昨日の僕が僕を殺す』

文芸・カルチャー

2019/2/5

※「ライトに文芸はじめませんか? 2019年 レビューキャンペーン」対象作品

『昨日の僕が僕を殺す リュウグウノハナヨメ』(太田紫織/KADOKAWA)

 骨を愛するお嬢さまと、平凡な男子高校生が数々の謎を解く大ヒットシリーズ『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』が人気の太田紫織さん。かねて臨みたかったという“あやかし”をテーマにしたホラーミステリ『昨日の僕が僕を殺す』が話題を呼んでいる。

 主人公は、家族間の殺人事件に巻き込まれた過去を持つ少年ルカ。亡き叔母の愛したベーカリー『フレープ・ソーリ』に居候をすることになるが、店長の渚はじめ店内の面々は、人間社会に溶け込んで暮らす“あやかし”たちだった。怪異を引き寄せやすい体質をもつルカは、幽霊や妖怪、さらに犯罪事件ともたびたび遭遇する破目に――。最新の第2巻には、怖くて切ない3篇の物語が収録されている。

 ルカと仲良しの狗神の青年・榊が、かつての飼い主である老婆と再会。彼女の大切な忘れ物を見つけ出そうと奔走する第一話「ワスレモノ」。

 続く第二話にして表題作「リュウグウノハナヨメ」には、榊の姉の“ちはや”が登場。水族館で働くちはやに付きまとう、正体不明のストーカーの影。ルカ&榊コンビは彼女を守ろうとするが……。

 最終話「テケテケ」では、北海道発祥という説もある都市伝説界の人気アイドル(?)、テケテケを取り上げている。テケテケに怯える隣のクラスの女子生徒から相談を受けたルカは、榊たち『フレープ・ソーリ』の大人組の手を借りず、自分を中心とした高校生組だけで怪異に挑む……。

 語り手であるルカの目を通して、幽霊・妖怪・都市伝説と、三者三様に味わいの異なる怪異が展開されている。

 著者が「今回は榊巻」と語るように、メインとなるのは狗神憑きの美丈夫、榊だ。犬の心を持ちながら人間の体を持つ彼は、ルカと同じく人と“あやかし”の境界線上に立っている。犬であった頃の榊と、人間として生きる榊。1巻ではまだ描かれていなかった彼の歴史が今作ではじょじょに明かされて、ルカとの関係性を深めていくのが微笑ましい。

 微笑ましいといえば、ルカ自身の変化も、そうだ。

 犯罪事件の当事者という苦しみを抱える彼は、他人に心を許さず、友だちも大切な人もつくるまいと決意して生きてきた。そんなルカが第2巻では少しずつ変わっていく。見ず知らずのおばあさんが困っているのを放っておけず、次々に現れる“あやかし”たちともなじんでいき、初めてのお泊り会やピクニックも経験する。

 折りしも季節は春。寒い冬から暖かい春へと自然がうつろっていくように、凍てついていたルカの心にも日射しが差し込み、ほとびていく。

 とりわけ胸アツシーンは、何かとルカに絡んでいたクラスメイトの意地悪田沼とゲームをしながら、互いの心の内を語り合うくだりだろう。人と触れ合うことで、これまで気づかなかったことに気づき、自分を知っていく。つまり、成長していく。

 ちょっとふしぎなホラーミステリとしても、少年の心の変化を描いていくビルドゥングスロマンとしても、読み甲斐たっぷりのシリーズだ。

文=皆川ちか

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