子持ちのくせに不倫しまくり、年収3千万と豪語するが本当は無職…超地雷男に騙されて転落する女の話『俺たちつき合ってないから』

マンガ

公開日:2019/3/23

『俺たちつき合ってないから』(宮崎摩耶/竹書房)

 結婚したい。幸せな人生を歩みたい。

 このような願いは誰もが持つ。しかし自身の幸せに気がつけていない人ほど、周囲の幸せを妬んでしまう人ほど、この願いがより強くなり、ねじ曲がっていくのではないか。

「誰もがうらやむ」結婚がしたい。「誰もがうらやむ」幸せな人生を歩みたい。

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 おそらく「 」で示したように、幸せな人生を歩むために「必要ではない」、他人に見せつけるための「承認欲求」が強くなるように感じる。

『俺たちつき合ってないから』(宮崎摩耶/竹書房)は、他人の幸せを妬み、自身がそれ以上の幸せをつかむため「間違った方向」へ努力し、人生を転げ落ちていく女性を描いた作品だ。哀れな主人公の名前を「ゆりか」という。

■結婚するなら年収3千万以上じゃないとイヤなの

 ゆりかの人間性を象徴するシーンがある。本作の冒頭、友達と焼き肉を食べる場面だ。大量の肉を焼きながらゆりかはこう言った。

私結婚するなら
年収3千万以上じゃないとイヤなの

 今のご時世に唖然とする言葉だ。元々ゆりかは彼氏と付き合っていたのだが、月収15万円で誕生日プレゼントも買えない男だった。「だから別れてやった」。彼女の高飛車な発言に友達は驚きつつ、なんともいえない表情で「ゆりかは美人だからな~」と相槌を打ち、「すぐにいい人見つかるよ」とフォローする。しかしゆりかは友達の本心をなんとなく見抜いていた。

私はまた一人ぼっち…
いっつもそう…うまくいかない…
なんかもう全部イヤ
だったらせめて結婚相手は妥協なんかしてたまるか

 焼き肉の解散後、自然とこぼれる涙に「バカバカしい」と強がってみせる。なぜゆりかの心はここまで歪んだのか。彼女の歩んだ人生からそれが垣間見える。

 幼少の頃はお金がなかったが、一人娘として大切に育てられた。けれども周りと違う生活を送ることに気づいていた。これまで付き合った彼氏は、みんな金のない「夢追い人」。そのくせ平気で浮気して、男運に恵まれなかった。現在は声優を目指しながら、生活のため仕方なくキャバクラで働いている。

いつだ?いったいどこで…
私…なんか間違った?

 思わず飛び出る自問自答の言葉が哀れだ。少し同情してしまう。ゆりかは自身の不遇な人生を嘆き、誰もがうらやむ結婚や幸せを求めていた。しかしうまくいかず、果ては他人を妬むように見つめ、いつも孤独を感じていた。たぶん、このような女性は現実にもいるはずだ。

 そんなとき、人生一発大逆転のチャンスがやってきた。キャバクラでついに年収3千万円の男と巡り合ったのだ。

■この物語の先に救いはあるのか…?

「俺、年収3千万円だよ」と豪語する男がゆりかの目の前に現れた。清潔感が漂う細身のスーツ姿、メガネをかけた知的な顔立ち、品性にあふれ柔らかい物腰。たしかに高給サラリーマン…のような気がする。

 突然の出来事で動揺を隠しきれずにいると、男の周りにキャバ嬢がたかる。思わずライバルを押しのけ、3千万円の男を独占し、連絡先を交換したゆりか。ついに彼女の幸せな人生がスタートする…はずだった。

 ところがこの男は地雷物件だった。それもとんでもない地雷だ。2人の子どもがいる家庭持ちのくせ、何人もの女と浮気を重ねる。さらに言葉巧みに浮気相手をたぶらかし、10万円単位のお金を持ってこさせる。年収3千万円どころか、無職で女性から金を巻き上げるクズ中のクズ男だった。本作後半の描写に、女性読者はきっと怒り狂って、本を引きちぎったり燃やしたりしてしまうかもしれない。

 この男のおかしいポイントに気づける瞬間はいくつもあったが、ゆりかはどんどん「幸せになれない恋」にのめりこんでいく。またもゆりかは間違ってしまった。

 この物語に救いはあるだろうか。本作の最後のページには第2巻の予告があるが…どうやら違うらしい。

 結婚とは、人生のパートナーと一緒に幸せをつくりあげること。決して幸せにしてもらうために結婚するわけじゃない。幸せは自分の姿に目を向けないと見えない。どれだけ他人を見つめても、そこに自分の幸せな姿はない。

 本作を読むと考えさせられる。簡単に彼女を嘲笑うことができない。まだ物語は始まったばかりだが、ゆりかに幸せが訪れることを願って仕方ない。

文=いのうえゆきひろ