恋人でも友達でもないけれど…。「未だ満ちる途中」の迷えるオトナたちと愛しい猫との共同生活『三日月とネコ』

マンガ

更新日:2021/1/21

『三日月とネコ』(ウオズミアミ/徳間書店)

 子どもの頃、人は歳を重ねるにつれて、徐々に無敵に、そして立派になっていくのだと信じてやまなかった。だが、30歳を超えた今、日々痛切に感じるのは、自身がいかに弱く、至らない人間かという事実だ。一人で成し遂げられることなど限られていて、誰かの助けなしに生きることなど不可能であることにようやく気付けたのかもしれない。

 自分と他者の弱さを認め、もがきながらも、支え合い生きていく大切さを絶対に忘れてはいけないと感じている。

『三日月とネコ』(ウオズミアミ/徳間書店)は、年齢も職業もバラバラの独身男女3人が、熊本地震をきっかけに出会い、猫一匹と共に、共同生活を送る物語だ。

advertisement

 本書は、猫と料理の描写に定評のある熊本在住の漫画家・ウオズミアミ先生の作品で、宣伝費等がクラウドファンディングの支援であることでも話題となった。

 物語は、10年恋はご無沙汰だという書店員の灯(44)が、店内で女子学生に「オバさん?」と声をかけられ、ショックを受けるところから幕を開ける。

 帰宅後、同居人の精神科医師・鹿乃子(34)とインテリアショップ勤務の男性・仁(29)に、他者に「オバサン」と言われると堪えてしまう現実や、結婚や出産を経験していないため、何か欠けたままずっとオトナになりきれていない不安を吐露する。恋多き全性愛者で、男性の恋人がいる仁は共感するが、年下の彼女がいる鹿乃子は、笑顔で否定して、

「“男だから”“女だから”“若いのに”“歳なのに”“ホモのくせに”“レズの分際で”
その言葉に苦しめられている人は本っ……当に多いわ 精神科医をしていると痛感する
自覚のあるなしにかかわらず すり込まれるのよね それってウンザリ!
それに欠けてるんじゃないよ 満ちる途中でしょ? 人生なんてさいごまでずっと」

 と、二人に語りかけるシーンは強く印象に残った。

 迷える大人3人は、愛猫のミカヅキと共に、お互いの苦手分野を補い、助け合いながら穏やかに生活している。それは家事分担や病気の時だけではない。残りの人生をより楽しく、心温まるものにしようと、夜にお菓子を食べながら一緒にドラマの続きをみて、ミカヅキと共にそのままリビングでザコ寝することや、新たに子猫2匹を迎えることを決めたことも、生活を満たすものなのだと切に感じた。

 これまで平凡に生きてきた灯は、人生で一番「普通ではない生活」をしている今の暮らしが一番好きだと感じている。「ふたりといる今が一番マトモ」だと告げる仁も、他人と暮らすことに抵抗があったものの、「今とても安定している」と思っている鹿乃子も、3人と猫との共同生活に、大いに癒され、心の拠り所となっている様子が伝わってきた。

 もちろん、世間の声は温かいものばかりではないし、悩みや葛藤はそれぞれに尽きることがない。特に40代の灯は両親が自分に託した夢や希望を叶えられなかったことを悔やむこともあれば、こんなはずじゃなかったと思ったり、これ以上の幸せはないと思ったり、気持ちが揺らぐこともある。

 だが、小さな希望をいくつも胸に抱きながら、猫たちと共に素敵な三人暮らしをしようと前を向く大人たちの姿は、世間の常識やルールにとらわれ、苦しくて仕方がない大人の読者の心を優しく包むものだと感じた。人生はきっとまだまだ満ちる途中だと励まされる、とても温かいマンガである。

文=さゆ