あなたを最も怖がらせる1冊は? いま話題の「怪談えほん」シリーズ全巻をマトリクスで徹底紹介!

文芸・カルチャー

更新日:2021/9/7

 宮部みゆきらベストセラー作家が腕を振るい、“怖い絵本”のブームを巻き起こした岩崎書店の「怪談えほん」。2011年の創刊以来、順調に巻を重ねてきた同シリーズは、今月刊行の最新刊『まどのそと』でついに10冊に到達した。

 毎年夏になると書店の絵本コーナーを賑わせているので、興味を抱いている方も多いだろう。一方で魅力的なタイトル・作家が多く、どれから読んでいいか迷ってしまうという声もありそうだ。

 そこで本稿では「怪談えほん」シリーズ既刊全10冊を、〈日常性〉と〈怖さの質〉からマトリクスに配置し、おおまかに分類してみた。シリーズ監修者である東雅夫氏のお墨付きだ。こちらを参考に、あなたの恐怖のツボにぴったりの1冊を見つけだしてほしい。

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 マトリクスについて説明しておくと、まず縦軸は日常性を示すライン。上に行くほど舞台設定が日常・現実に密着したものになり、下に行くほどファンタジー・非現実の度合いが高くなる。もちろんあくまで目安に過ぎないが、身近でリアルな怪談を読みたい人は図の上半分、幻想的な恐怖を味わいたいという人は下半分からセレクトしてみるのがいいだろう。

『マイマイとナイナイ』(皆川博子:作、宇野亜喜良:絵、東雅夫:編)は、くるみの殻に入ってしまうほど小さな弟ナイナイと少女の物語。宇野亜喜良のエキゾチックな絵柄も相まって、日常とかけ離れた幻想世界を作り上げている。『ゆうれいのまち』(恒川光太郎:作、大畑いくの:絵、東雅夫:編)は、森の向こうに幽霊の町が現れる、というファンタジー風の設定がなんとも魅力的だ。

 それらとは対照的に、『まどのそと』(佐野史郎:作、ハダタカヒト:絵、東雅夫:編)は終始室内だけで展開する作品。もっとも日常に近い絵本だが、かたかた鳴る窓の向こうには異様な世界が広がっていそうだ。『くうきにんげん』(綾辻行人:作、牧野千穂:絵、東雅夫:編)は都市伝説的な怖さを描いたもの。目には見えない怪人くうきにんげんが、気がつくと日常空間を侵食している。『かがみのなか』(恩田陸:作、樋口佳絵:絵、東雅夫:編)は子どもたちにとっても身近な異界である、鏡の向こう側を扱ったもので、ラストが恐ろしい。

 そして横軸で表しているのは怖さの質。便宜上「ショック・驚き」、「じわじわ・不安」と整理してみた。左側にあるのは、思わず悲鳴をあげてしまうようなショッキングな展開をもった作品。右側にあるのは、後になってじわじわと鳥肌が立つような、静かな恐怖を感じさせる作品だ。

 ショッキングな展開といえば、何といっても『いるの いないの』(京極夏彦:作、町田尚子:絵、東雅夫:編)だろう。ラストの衝撃はまさにトラウマ級。古い日本家屋に住むことになった男の子の目にするものと、“あの一言”は一度読んだら忘れられない。

『おんなのしろいあし』(岩井志麻子:作、寺門孝之:絵、東雅夫:編)は、小学生が古い倉庫で女性のおばけ(しかも足だけの)に遭遇する怪談らしい怪談。「ぺたぺた」という足音がまた怖いのだ。『ちょうつがい きいきい』(加門七海:作、軽部武宏:絵、東雅夫:編)は、椅子やブランコなどに挟まったおばけたちを描く…といえば可愛らしく聞こえるが、読後感はその正反対。衝撃の展開が待ち受けている。

『はこ』(小野不由美:作、nakaban:絵、東雅夫:編)は、箱に入れられたペットや物が次々と消えてしまう、という不安を掻き立てる神隠し譚。静かで救いのない結末に、背筋が凍る。『悪い本』(宮部みゆき:作、吉田尚令:絵、東雅夫:編)は、読者に呼びかけるような文章で、この世に存在する悪について考えさせられる作品。本を閉じても暗い不安が残り続ける、じわじわ系恐怖絵本の代表格だ。

 いかがだっただろう? この記事をまとめながらあらためて思ったのは、「怪談えほん」シリーズの怖さの多彩さ、そして驚くほどのクオリティの高さだ。マトリクスを参考にするもよし、タイトルや作者・画家名が気になるものから読むもよし。どの巻を読んでもおもしろさは保証つきだ。

 当代一流のクリエイターたちによる怪談が、いかに恐ろしく、心揺さぶるものであるかを、この夏ぜひ実感していただきたい。「怖いものはちょっと苦手…」という人にこそ触れてほしい豊穣な世界が、このシリーズにはある。

文=朝宮運河