「異界エレベータ」「きさらぎ駅」「くねくね」…毒舌IT社長×巫女の女子大生がネット怪異の謎を追う!

文芸・カルチャー

公開日:2021/6/25

CEO生駒永久の「検索してはいけない」ネット怪異譚 ~IT社長はデータで怪異の謎を解く~
『CEO生駒永久の「検索してはいけない」ネット怪異譚 ~IT社長はデータで怪異の謎を解く~』(水沢あきと/メディアワークス文庫/KADOKAWA)

 古今東西、人が集まる共同体にはありとあらゆる民間伝承が言い伝えられてきたのだから、世界中の人が行き交うインターネットの世界に、不可思議な話が山ほど集まるのは至極当然だ。インターネット上で語られる民間伝承、通称「ネットロア」。「ネットロアなんてよくできた作り話だろう」と思うかもしれないが、一概にそうとも言えない。もしかしたらこの世界には、私たちをこの世のものではない場所へといざなう妖魔が息を潜めているかもしれないのだ。

 水沢あきと氏著『CEO生駒永久の「検索してはいけない」ネット怪異譚 ~IT社長はデータで怪異の謎を解く~』(メディアワークス文庫/KADOKAWA)は、そんなネットロアにまつわる謎を追う物語。ネット上で語られる現代怪異に遭遇するのは、敏腕ITベンチャー社長と、巫女の血を引く女子大生だ。相性最悪の凸凹コンビが、民俗学の視点から考察を巡らせつつ、奇怪な出来事と対峙していく物語は手に汗握る展開ばかりでドキドキが止まらない。

 主人公は大学進学を機に上京してきた女子大生・宮守梓。彼女は、東京に住んでいる間、遠い親戚、時価総額3500億円、従業員数5000人を擁するITベンチャーの社長・生駒永久の世話になることになった。だが、生駒には裏の顔があった。彼は、ITベンチャーの社長業の傍ら、日本各地の霊山を結ぶ修験組織のテクノロジー部門の最高責任者でもあるという。先端のIT技術で社会の発展に貢献するとともに、その技術を用いて、現世と隠世のバランスをとる役割を担ってきた修験者たちを支援する役割ももっているというのだ。

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 たとえば、不可解な事件が発生すると、警察の捜査に協力するのが生駒の仕事。ときには、突然失踪した人間を、隠世から連れ帰るという危険な業務にもあたる。巫女の血を引く梓の面倒を見ることになったのも、実はこの仕事のためだった。修験者にとって巫女は現世と隠世との媒介をする力がある。「君を僕専属の道具として自由に使わせてもらうことになった」「これから君には僕の手足となって働いてもらう。選択権は無い」。生駒は初対面の梓に対しそんな暴言を吐くと、怪異事件の解決のために、梓を振り回し始めるのだ。

「異界エレベータ」「渋谷七人ミサキ」「きさらぎ駅」「くねくね」…。この作品では、ネットで噂される現代の怪異が次々と巻き起こり、あらゆる人が行方不明になっていく。梓は生駒に連れられ、それらの事件を解決しようと奮闘していくのだ。梓と生駒が経験する奇妙な出来事は、臨場感たっぷり。どれにも不思議な現実味があって、読む者を惑わせて離さない。

 そして、生駒と梓の関係性も気になって仕方がない。生駒は、クールといえば聞こえがいいが、とにかく冷酷。人のことを「道具」呼ばわりするその毒舌っぷりに、梓は腹を立てて、最初は巫女としての仕事をどうにか辞められないかと考えていた。だが、生駒と一緒に事件の謎を追ううちに、いつも無理をしてばかりの生駒のことを放っておけなくなっていく。そして、生駒も、梓のことを危なっかしいと思いながらも、その能力に一目置き始める。次第に変化していく2人の関係性は読めば読むほど微笑ましく、ホラー続きの物語に甘酸っぱさを加える。

 どんなに社会が発展しても、この世のものではないものは、きっとこの街のどこかに存在しているのだろう。ほんの少し道をそれた先に怪しい世界は待ち受けているのかもしれない。毒舌社長と一生懸命な巫女女子大生とともに冒険の旅に出れば、あなたも、奇妙な世界に迷い込むこと間違いなし。ゾクゾク背筋を凍らせるこの作品は、暑い夏の季節にこそぴったりの作品だ。

文=アサトーミナミ

CEO生駒永久の「検索してはいけない」ネット怪異譚 ~IT社長はデータで怪異の謎を解く~

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