すべてを支配する“狂気に満ちた母親”の企みに背筋が凍る……衝撃のイヤミス作品!『仮面家族』3つの読みどころ

小説・エッセイ

公開日:2021/7/31

仮面家族
『仮面家族』(悠木シュン/双葉社)

 家庭とは、自分のありのままの姿を見せることができる場所ではないのか。少なくともこの物語の家族にとっては違うようだ。悠木シュン氏による『仮面家族』(双葉社)は、驚愕の「イヤミス」作品。ページをめくればめくるほど、背筋をゾクゾクさせられる展開は衝撃的。描かれるのは、狂気に満ちた母が支配するとある家庭、そして、その家庭に隠された秘密、企み……。この刺激的なミステリー作品の読みどころを3つご紹介する。

(読みどころ1)母親に支配される佐久間家……そこに隠された企みとは

 物語は主に佐久間家の一人娘、高校1年生・栄子の視点で語られていく。佐久間家は10日前に都内にあるマンションに引っ越してきたばかり。はたから見れば、理想的な家族なのかもしれない。しかし、この家は、何やらおかしい。栄子の母親・由布子によってすべてが支配されているのだ。

 たとえば、栄子は母親から毎日、詳細な日記を書くことを課せられている。普通の日記と違うのは、母親からの「助言」と称した指示が赤ペンで書かれていること。誰と仲良くし、一日をどのように過ごすか。すべて母親の決めたシナリオ通りに毎日を過ごさないといけないのだ。

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 栄子に与えられた最初の指示は、「隣りに住む黒崎美湖と仲良くなりなさい」というもの。母親からの指示は黒崎家に関するものばかりのようだ。栄子の「新しい父親」・賢人は、母親よりかなり年下で画家らしいが、栄子と同様に由布子の言いなり。母親が2人を支配下に置くのは、一体どんな企みがあるのか。その企みこそが物語の大きな読みどころとなるのだ。

(読みどころ2)佐久間家にかかわることによって壊れていく黒崎家

 栄子の母が目をつけている黒崎家は、高校1年生の一人娘・美湖がいるごく普通の3人家族だ。2年前にこのマンションに引っ越してきて、ローンに苦しめられているらしいのだが、家族仲は極めて良好。しかし、隣に佐久間家が引っ越してきてから状況は一変していく。ただの近所付き合いをしていただけだったはず。それにもかかわらず、栄子の母親の企みによって、どんどん崩壊していく黒崎家から目が離せなくなってしまう。

(読みどころ3)この男も何か企んでいる? 同じマンションに住む怪しい家庭教師

 さらに気になるのは、栄子の母親が見つけてきた家庭教師・福田柊の存在だ。同じマンションの別の階に住んでいる大学生だというが、軽薄そうな雰囲気に栄子は警戒する。栄子と付き合いたいと思っているのが見え見えで、栄子の母親はむしろそれを推奨しているような雰囲気さえある。整った中性的な顔立ちに、隣家の美湖はときめいているようだが……。栄子の母親はこの男をどうして連れてきたのか。一体この男は何者なのか。次第に彼は物語の重要なキーパーソンになっていく。

 ちぐはぐだらけの家族。次第に明らかになる母親の企みに何度寒気が走ったことだろうか。暑い夏には恐ろしい物語が読みたくなるもの。この作品は、まさに今の季節にピッタリといえるだろう。もし、自分の家の隣にも、佐久間家のような家族が引っ越してきたとしたら……。そんな想像をせずにはいられない背筋が凍るミステリー作品をあなたも手にとってみてはいかがだろうか。

文=アサトーミナミ

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