ゲイに対して偏見まみれだった男性(65才)に少しずつ気持ちの変化が……? 中高年男性同士のBL『銀次と桃田』

マンガ

公開日:2022/4/30

銀次と桃田
銀次と桃田(シルバーとピンク)』(柳沢ゆきお/主婦の友インフォス)

 異性愛者がゲイと出会って恋に落ちる、というのはBL作品のひとつの王道だが、その異性愛者が自分の息子の義父であり、年齢も65才、ゲイに対しては強い偏見を抱いている、となると話はだいぶ変わってくる。『銀次と桃田(シルバーとピンク)』(柳沢ゆきお/主婦の友インフォス)は、妻を亡くした男・銀次(65)と、彼の娘の義父である桃田(53)の関係を描いた、中高年男性同士のBL作品である。

 正直、物語冒頭の、銀次が桃田に対して冷たく当たったり、偏見によるひどい言葉を投げつけているシーンを読んでいたときは、銀次が桃田と恋に落ちる姿など1ミリも想像ができなかった。今までのBL作品で言えば、銀次はゲイカップルの仲を引き裂くようなわからず屋の親父役のイメージだろう。しかしこの作品では彼は主人公。つまりBLの当事者になる男なのだ。果たしてこの2人の仲がどのように進展していくのか、あまりにも気になって最新話まで一気に読んでしまった。

銀次と桃田 p77

 銀次は桃田と出会うことで、自分自身を見つめ直すことにもなる。「ちゃんとしていない」のは自分も同じなのではないか、と。そうして自分を客観的に見ることができるようになることで、桃田に対する根拠のない反発は少しずつ薄れていく。

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銀次と桃田 p115

 銀次の無理解はゲイに対してだけではない。自分の目の前の娘に対しても、凝り固まった価値観を持っているせいで、彼女の気持ちにはまるで気づくことができない。

 それでも、なぜか銀次が憎めない。それは桃田も同じだ。ふとしたときに見せる銀次のくつろいだ顔に、つい見入ってしまう。頑固でわからず屋ではあるが、決して性根が悪い男ではないのだ。最初は彼の発言の1つひとつに眉をひそめていたが、読み進めていくうちに、なんだか銀次が可愛く感じられてくる。もしかすると、私自身の中にも「中高年男性」に対する無理解や偏見があったのかもしれない。桃田と一緒に暮らして気持ちが軟化していく銀次と同じように、漫画を読んでいくことで読んでいる側も銀次に対して気持ちが軟化していく。

銀次と桃田 p109

 桃田から家事を教わる銀次。2人の関係が少しずつ打ち解けるにつれて、コミカルな場面も増えて笑うことも多くなる。わかり合えない人間同士が、それでいてお互いに歩み寄ろうとする姿には希望がある。

銀次と桃田 p133

 ちなみに、あまり色恋的なシーンが多く描かれる作品ではないが、だからこそ時折見せる桃田の銀次に対する感情にはドキッとしてしまう。今のところ銀次にはその気がまったくないように見えるが、どのように気持ちが変化していくのだろうか。

銀次と桃田 p175

 恋心こそ芽生えていないものの、明らかに銀次の考え方や価値観は変化している。わかっていないと自覚しながら、教えてくれと頼む姿は格好いい。読めば読むほど、銀次に惹かれ始めている自分もいる。現在、同じレーベルの『声が響いて優となり』とともに、単行本1巻が発売されたばかり。まだ詳しく明かされていない桃田の過去も含めて、先が気になる作品である。

文=園田もなか

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