「拝金主義」の女弁護士が、奇妙な遺言状に挑む! 月9ドラマも放送中、小説『元彼の遺言状』の魅力

文芸・カルチャー

更新日:2022/9/2

元彼の遺言状
元彼の遺言状』(新川帆立/宝島社)

※本記事は、作品の内容が含まれます。ご了承の上、お読みください。

 4月に放送がスタートした、月曜9時ドラマ『元彼の遺言状』。第19回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した、新川帆立さんの小説が原作です。綾瀬はるかさんが主演、大泉洋さん、生田斗真さんも出演するという豪華なキャストが放送前から話題を集めていた本作。放送開始後も、2話で『元彼の遺言状』にあたる部分は終了し、3話以降は短編集『剣持麗子のワンナイト推理』をベースにしたエピソードや、ドラマオリジナルのストーリーがスタートするなど、目が離せない展開になっています。そんな『元彼の遺言状』の魅力を、原作小説からひもといていきたいと思います。

犯人に遺産を渡す!? 奇抜なストーリー展開

 本作の魅力は、なんといってもその奇抜な設定です。「僕の全財産は、僕を殺した犯人に譲る」という大企業の御曹司であり、主人公の元彼でもある森川栄治の遺言。そして依頼人・篠田を犯人に仕立て上げようと奔走する弁護士で主人公の剣持麗子。栄治は自分がお世話になった人にも相続を、と元カノひとりひとりにも贈り物かのように不動産を用意し、栄治の親族が経営する企業では“犯人選考会”という奇妙な催しがスタート。一見リアリティのない設定ですが、過去に行われていたという贈答競争“ポトラッチ”を絡めて栄治の心情が推測されると、現実味を帯びてくるから不思議です。真相に近づくにつれて栄治の真意も判明し、最終的には栄治の取った行動に深く納得してしまいます。

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弁護士である作者ならではの、知識に裏打ちされた筋書き

 作者である新川帆立さんは弁護士の資格を持ち、実際本作で賞を受賞するまでは弁護士として大手事務所に勤務していたそう。だからこそ、作中における法律の使い方が巧みで、説明もわかりやすいのです。たとえば先にも紹介した遺言状について、麗子は「公序良俗違反で無効になる可能性が高い」と指摘。その上で、この遺言が有効なものであることをどう証明するか、という方向で麗子は動くわけですが、「実際の法律家」だからこその知識でストーリーが動いていくその筋書きが見事。麗子が栄治の資産を推測する方法など、かなり難解な話なのに、読んでいるとするすると理解できるのも不思議です。

個性的で、憎めない登場人物たち

 そんな奇抜な設定ながらもリアリティがあり、わかりやすいストーリーをさらに魅力的にしているのが、個性的なキャラクターたち。主人公・剣持麗子は、お金だけを信じる冷徹な敏腕弁護士。小説の冒頭から、プロポーズとして指輪をプレゼントしようとした彼氏に対して「指輪がしょぼい」と激昂するなど、高飛車ぶりを発揮します。その上、警察官の車両を拝借して突っ走るような、型破りかつ痛快な一面も。そんな彼女が「自分はなぜお金に執着するのか」という自身の内面と向き合い、事件解決を目指していく姿も魅力的です。その他にも、麗子の元彼であり、「自分を殺した犯人に遺産を相続させる」という遺言を書いた森川栄治は、「僕はこんなに格好良くていいんだろうか」とショーウィンドウに映った自分に自問自答する変わり者。そんな栄治に恋をしていた栄治の親族・紗英も、最初はきゃんきゃんとうるさく、高飛車な印象だったものの、物語が進んでいくうちにそれも素直な性格からきているのだと、憎めないキャラクターになっていきます。

 そんな独自のストーリーと魅力的なキャラクターが楽しめる『元彼の遺言状』。本作を楽しんだら、同じく剣持麗子が登場するシリーズ作『倒産続きの彼女』『剣持麗子のワンナイト推理』もぜひご一読を。

文=原智香

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