『手袋を買いに』あらすじ紹介。人間の住む町へ、子狐の初めてのおつかい!

文芸・カルチャー

公開日:2023/7/26

 新美南吉は身近な動物や庶民、子どもたちの生活を美しい文体と巧みな心理描写とユーモアで描く作風が特徴の児童文学作家です。『ごん狐』や、本稿でご紹介する『手袋を買いに』などは、国語の教科書でもおなじみの作品であり、もう一度読んでみたいという方も多いのではないでしょうか。新美南吉の『手袋を買いに』のあらすじを紹介し、作品を解説します。

手袋を買いに

『手袋を買いに』の作品解説

『手袋を買いに』は昭和期の童話作家である新美南吉が書いた童話で、生前に計画されて南吉が亡くなった後、1943年に刊行された童話集『牛をつないだ椿の木』に所収されました。新美南吉の代表作である『ごん狐』と同様に狐が登場することが印象的な作品です。

 1954年から2011年にかけて、小学校3年生向けの国語の教科書に掲載されていた作品で、新美南吉の代表作のひとつとされる作品です。

『手袋を買いに』の主な登場人物

子狐:本作の主人公。銀狐の子どもで、町の帽子屋へ手袋を買いに行く。

母さん狐:子狐の母親。人間に警戒心を抱いている。

帽子屋さん:町の帽子屋。子狐に手袋を売ってくれた人物。

『手袋を買いに』のあらすじ​​

 ある雪の日の朝。外で遊んできた子狐が帰ってくると「手が冷たい」と母さん狐に訴えます。見ると子狐の手は冷たい雪で牡丹色になっていました。冷え切った子狐の手を握り、温めながら、母さん狐は手袋を買ってやろうと思いつきます。

 夜になると狐の親子は、人間の住む町へ向かいました。しかし、母さん狐は、町の灯を見た途端に足がすくんでしまいました。友達と一緒に町へ出かけたときに、人間に酷い目にあわされたことを思い出したからです。

 どうしても恐怖感が拭えない母さん狐は、子狐に自ら手袋を買いに行かせることにしました。母さん狐は、手袋を売っている帽子屋さんの目印を教え、そして子狐の片手を人間の手に化けさせ、人間の手だけを帽子屋さんの戸口に差し入れ、手袋を買うように伝えました。

 町に着いた子狐は、帽子屋さんの戸を叩きました。母さん狐には、人間の手に化かした方の手だけを差し入れるように言われています。しかし、帽子屋さんが戸を開けた拍子に差し込んできた光が眩しくて「手袋をください」と狐のままの手を差し入れてしまいました。「狐が化かしに来たな」と思った帽子屋さんでしたが、子狐が持っていたお金が本物だと気づくと、黙って手袋を渡してくれました。

 無事に手袋を買って帰ってきた子狐は、間違った手を出してしまったこと。それでも手袋を売ってくれたことを話し「人間って少しも怖くない」と母さん狐に言いました。母さん狐はあきれながら「人間は本当はいいものなのかしら」と呟くのでした。

『手袋を買いに』の教訓・感想​​

 人間は怖いものと思っていた母狐ですが、「狐だということを分かりながらも手袋を売ってくれた」という子狐の言葉で、それまで抱いていた人間の印象が少し変わり物語が終わります。狐というと昔から人間を化かしてからかうなど、意地悪なイメージもありますが、それも思い込みかもしれないと私たち人間にも思わせてくれる作品です。

<第20回に続く>

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