岡村靖幸「人間が好きじゃないと歌詞なんて書けない」 中高生時代に愛読した、少女の心の機微を描いたSF小説【私の愛読書】

文芸・カルチャー

公開日:2023/7/28

岡村靖幸さん

 さまざまなジャンルで活躍する著名人たちに、お気に入りの一冊をご紹介いただく連載「私の愛読書」。今回は『岡村靖幸のカモンエブリバディ』(双葉社)発売に合わせ、岡村靖幸さんにご登場いただいた。

 本書は、岡村さんがゲストを招いて、俳句やラップ、コント、歴史、ポエトリーリーディングなどを学ぶNHKのラジオ番組が書籍化されたものだ。

 紹介してくださった愛読書は、ラジオスタッフからも「人間が好き」と評される岡村さんらしい、人間の心のうちを描いたものだった。

(取材・文=金沢俊吾 撮影=booro)

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SF小説にハマった中高生時代

──岡村さんの愛読書を教えてください。

岡村靖幸:筒井康隆さんの『家族八景』です。中高生の頃、SF小説が大好きで、星新一さんや筒井康隆さんを読み倒しました。筒井康隆さんだと『時をかける少女』『俗物図鑑』『狂気の沙汰も金次第』『俺に関する噂』『笑うな』『富豪刑事』。どれも大好きでしたね。『虚人たち』以降は難解になっていくのですが。僕はそれより前の、ドタバタしたスラップスティック・コメディと言われていた頃の作品が好きでした。

家族八景
家族八景』(筒井康隆/新潮社)

──筒井康隆さんの作品のなかでも『家族八景』が特にお気に入りだと。

岡村:『家族八景』はドタバタ、エログロ、ナンセンス、という筒井康隆さんのイメージとはちょっと違う作品です。主人公の少女がテレパス、人の心が読めてしまう超能力を持っていて、いろんな家庭のお手伝いさんをやるんです。一見すると平和な家庭でも内面はドロドロしていて、少女は心が読めるゆえに事件を起こしてしまうというストーリーでした。青春小説として、性に目覚めようとしている少女の心の機微みたいなものも読めたし、推理小説的な側面もあるし、すごく面白く読みました。

人間が好きじゃないと歌詞なんか書けない

──先日発売された『岡村靖幸のカモンエブリバディ』に収録されているラジオスタッフの対談で「岡村さんは、人のことをめちゃくちゃ観察してますし、人が好きなんだろうな」というお話がありました。『家族八景』は岡村さんらしいセレクトだなと思ったのですが、ご自身でも「人間が好き」だという自覚はありますか。

岡村:人間、好きでしょうね。人間が好きで興味ある人間じゃないと、たぶん歌詞なんか書けないと思います。というより、人間を好きな人が、音楽を作ったり表現活動をしたりするんだと思います。

──人間が好きというのは、自分の仕事を認められたいとか、たくさんの人に曲を聴いてほしいとか、そういった想いもあるのでしょうか?

岡村:どうすればたくさんの人に聴いてもらえるのか、やはり考えますね。例えば、演奏がちょっと抽象的で難しいものだったとしたら、歌詞をわかりやすくしてバランス取ったりとか。でも、誰もがそんなバランスを取りながら音楽をやっている気もしますけどね。

──歌詞やタイトルを見るだけで「岡村ちゃんっぽい」と思えるようなものが多いですよね。それは意識的にやっているということでしょうか?

岡村:そうですね。どんなに実験的なことをやってても、結局、キャラとして「岡村ちゃん」と言われるようにしようとは思っています。僕は歌詞のせいでそう思われることは少ないんですけど、実は音楽的には多少実験的なこともたくさんやっているんです。でも完成されたものは「岡村ちゃん」というパブリックイメージを保てるように意識しています。

──その感覚は昔から持っていたのですか?

岡村:雑誌で対談連載が始まってから、より考えるようになりました。魅力的な人と対談するには、僕自身に惹きがないとダメなんですよ。音楽や芸能に興味はない人にも「この人に会ってみたい」と思われなきゃいけない。そうなると、僕を知ってもらう入り口は広いほうがいいんです。

──『岡村靖幸のカモンエブリバディ』を刊行したこともそうですが、雑誌に連載を持ったり、アーティストのプロデュースをされるのも入り口を広げる行為なのかなと思いました。

岡村:そうですね。僕だけじゃなく、スタッフもポピュラリティを保てるように仕事のバランスは考えてくれていると思います。

──ちなみに、ご自身の著作を読み返すことはありますか?

岡村:はい、よく読み返しますよ。過去の対談を読んで「このとき、僕はこんなこと思ってたんだ」「あの人、こんないいこと言ってたんだ」とか、気付きがたくさんあるんです。

──私も『岡村靖幸 結婚への道』が好きで、よく読み返すんです。

岡村:それはありがとうございます。本って、何回でも読み返せるのが素晴らしいんですよね。時間が経ってから読むと、また違ったことに気が付ける。音楽だってそうですよね。15年前の自分だったら全然わからなかったんだけど、今はしっくりくる音楽とか。逆に、今はうるさくて聴けないとか。人生の季節によって見れるものや聴けるもの、好きになれるものって変わっていくので。僕も、聴き返したり読み返したくなる作品が作れたらいいなと思っています。

Styling: Yoshiyuki Shimazu
Hair&Make-up: Harumi Masuda (M-FLAGS)

次回ツアー「岡村靖幸 2023→2024 WINTER TOUR」の開催が決定!
11/11(土)の東京・Zepp DiverCity TOKYOをかわきりに全国10カ所で行われます。詳しくは公式サイトでチェックを。
https://okamurayasuyuki.info/info/news/1250/

<第28回に続く>

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