SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第26回「ホストに行く」

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更新日:2023/8/27

「あなたの地元はどこですか?」

 趣味を訊かれるより、好きな食べ物を訊かれるより、休日の過ごし方を訊かれるより、一番訊かれる質問であり、一番してしまう質問なのではないだろうか。

 私は答える。

「東京です」

 どんな場面でも相手は大体、へエ、っと少し驚いてから質問を重ねる。

「東京のどこですか」

「新宿です」

 いかなる場面でも相手は大体、え、と割としっかり驚いてくれる。

 その後、お名前渋谷さんなのにですか、という少し面倒なやりとりも漏れなくついてくるのだが、新宿は新宿でも歌舞伎町で生まれたという話題になるとありがたいことに軽く盛り上がる(まア初速のみなのだが)。それもそうだ、歌舞伎町の生まれはなかなかに居ない。新宿区、そして私が生まれたあたりは極端に子供が少なく、私の小学校は学年で生徒が三十人。隣の小学校に至っては学年で八人しかいなかった。珍しいところで生を受けて育ったものだとつくづく。

 ただ悲しいかな私は、歌舞伎町のことを殆ど知らない。知られてない抜け道や、どこにどんなラブホテルがあって、ここら辺は近づいちゃいけない、くらいのことはもちろん知っているが、そういうことではなく。正確には遊び方を知らないのだ。従って、伴った体験談があまりない。

 だから、もう少し、歌舞伎町出身と言うからには、ならではの体験の一つや二つ、人に話せるような経験をしてみたいものだ、と漠然と何年も思い続けていた。

 そんな折に、友人から連絡が入る。

 

「ホスト行こうぜ」

 

 はい。待ってたよ、こういうの。

 以前働いていたホストクラブに顔を出したいという友人からの誘いだった。もちろん新宿は歌舞伎町のホストクラブである。私は支度をしてすぐさま玄関を飛び出した。

 風林会館にほど近い雑居ビル、下まで迎えにきてくれた友人に続いて胸を高鳴らせながらエレベーターに乗り込む。たどり着いた店の扉は想像以上に荘厳で、いざ開いたその先は扉以上に荘厳だった。

 席に着くと、その店のオーナーと代表が迎えてくれた。とても親切で押し並べて感じが良い。初めての場所で、どうしたらいいものか戸惑っている私の居心地が悪くならないように、さりげなく気を配ってくれる。そのおかげでものの五分も掛からず場の空気に慣れることができた。

 生まれた余裕の中で私は店内を軽く見回してみた。歌舞伎町で最も有名なホストクラブのグループから独立を果たし経営しているというこのお店は、他と比較をしたことがないのでよくわからないが、隅々まで清潔感があり、キビキビと動くキャストの雰囲気も相まって、かなり洗練されているように感じた。

 色々な話を聞かせてもらい、また同等に聞いてもらい、作って頂いたその場の空気に身を委ねて過ごしていたら、あっという間に一時間が経っていた。

 翌日も仕事であったため、残念だがここで退散を決めた。

 帰り道、総括して思ったことは一つ。

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しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。さらに2024年6月2日の東京・日比谷野外音楽堂を皮切りに、大阪、山梨、香川、北海道、長崎を巡る初の野外ツアー「都会のラクダ 野外TOUR 2024 〜ビルシロコ・モリヤマ〜」(追加公演<ウミ>、<モリ>)開催する。

自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中


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