バイト先のボウリング会で、ひとりだけぎこちなく浮いている俺。自然にハイタッチすらできず…/これは勇気の切断だ⑤

文芸・カルチャー

公開日:2023/12/19

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病気をきっかけに不登校になった中学生時代。リアルが充実し始めたけど、卒業する頃にはまた友達が0人になっていた高校時代。アルバイト先の皆で行くボウリングに自分だけ誘われなかった大学時代。あえてパジャマで出社した社会人時代。

もこうが“もこう”になるまでの全てを大公開! 「配信なんかではまるで美談のように話してるけど…」 今だからこそ言える、 もこうの秘めたるの想いがここに。

※本作品は『これは勇気の切断だ』(もこう/スターツ出版)から一部抜粋・編集しました

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これは勇気の切断だ
『これは勇気の切断だ』(もこう/スターツ出版)

もこうのブログ
2011年2月10日

 前記事からの続き

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 ボウリング場で合流するも、

 俺を歓迎する声は無かった。

 

 誰一人として俺が来たことに無関心。対照的に、待ってましたと言わんばかりに大歓迎される副店長。

 もちろん、エレベーターの中ですでにこうなることはわかっていた。

 それを目の当たりにして傷つくことすらもわかっていた。そうだ、これは想定の範囲内。でも、やっぱりこんなん見せられて空元気を振る舞う程もう力は残っていない。。

 そもそもこの状況で無理やりテンションを上げられる人間がいるのならば見てみたい。

 

 呆然と立ちすくむ俺。だってどこに座っていいのかわからないのだから。

 すると、ここでもやはり副店長が手を差し伸べてくれる。

 

 副店長「おおい、お前ここのレーンやわ。同じやな。こっちこい。ここ座れや。」

 

 俯きながら副店長のいるレーンに駆けていった。

 レーン上にあるスコアボードを見てみると、ちゃんと俺の名前があった。一応参加はさせてくれるらしい。流石にここまできて俺を除け者にするほど酷いことはしないか。

 合流後、参加メンバーは俺たち含め12人。その数を3レーンに分け、4人グループが3つ。

 1ゲーム目、俺は、副店長・キッチンの社員さん・同じポジションの先輩、この3人と同グループとなる。

 左隣は女の子グループ、右隣はA君率いる男子グループ。それぞれに分かれた所で、いよいよゲーム開始。

 場は一気に盛り上がりを見せた。左からはワーワーキャッキャキャッキャと甲高い声が、右からはスポーツ系クラブのかけ声のような歓声が飛び交った。

 そんな中、俺グループ先頭バッターであるキッチンの社員さんがいきなりスペアを取る。

 

 副店長「おおおーーい! いきなりかいお前~~~」

 先輩「やりますねえ~ww何気合入ってんすかww」

 キッチンの社員さん「うっしゃあーー。幸先ええわこれ!」

 

 社員さんは二人とハイタッチを交わす。

 普段ボウリングに行かない俺でもこういうノリくらい知ってる。だから、一応掌をかざし、ハイタッチを受ける態勢だけ取ってみた。

 すると意外にも社員さんは俺と目を合わせ、笑顔でハイタッチをしてくれた。

 

 と思ったその時・・・。

 

 社員さんの左手が下がり、何故か右手だけでのハイタッチに・・・。

 なんというか、本当はハイタッチぐらいしてやってもいいが、でも両手で思いっきりやることもないか、みたいな。

 俺に対してだけ温度差があるというか。とにかく絡み辛かったんだろう。そりゃ当然だ。この人と喋ったことなんか片手で数える程。こっちだってどう絡んでいけばいいのかわからない。でも、それでも俺は手を掲げた。俺だけを置いてけぼりにしていくその場の「空気」に少しでも乗ろうと、無我夢中で掲げた両手だったのに。その両手をあの中途半端なハイタッチがなし崩していった・・・。

 いつしか俺に残っていた微量の勇気は完全に消え去り、もう、だんまりを決め込む態勢に入っていた。

 

 1ゲーム目終了。なんだかんだでピン目がけてボールを投げてる時は楽しい。これが、俺一人だけだったらもっと楽しいんだろう。

 ちなみにスコアは62点だった。隣の女の子にすら負けていた。

 

 2ゲーム目を開始するにあたって、グループ分けが行われる。

「お別れグー・チョキ・パー」をご存じだろうか。まずグループ内でじゃんけんをする。といっても勝敗を決める訳ではない。

 例えば俺グループの場合、俺がチョキ、副店長がパー、社員さんと先輩がグーだとすると、他のグループで同じ手を出した奴らと一緒になる。

 あいこだったり、2種類しか出なかった場合はやり直し。

 

 他メンバー「おーいグー組こいwww」

 「パーこっちねーー」

 「チョキはーーあと誰ー?」

 

 俺「あ・・・僕チョキです。」

 

 チョキ組は俺とBさん、それにキッチンのバイト2人。A君はグー組だった。

 

 社員さん「おーし皆集まったな。ああ、そうや、あんなもこう君。賭けすることになったんやけどやるやろ? グループの倒したピン合計で競って、一番低かったグループが一番高かった所のグループ一人ずつにジュース一本。女の子はハンデで+30ピンな」

 

 拒否権など俺にあるはずもなかった。しかしたかがジュース一本といえど、一文無しの状態であるがため万が一負けた時のことを考えるとゾっとする。

 

 2ゲーム目スタート。俺はトップバッター。投げる前、ふとスコアボードを見ると何故か俺の登録名が少し弄られていたが、これは好意的に受け取ることにした。

 前ゲームでボウリングの感覚を思い出したのと、賭けをしているという緊張感から、このゲームは調子がよかった。2投目ではストライクも取った。

 だけどハイタッチをしていいのか良くないのか、空気がよくわからず、結局投げた後ぎこちない笑顔を作り着席するのがやっとだった。ストライクを取ったのに、喜びすらしないのはどう考えても印象が悪いだろう。だから無理やりにでも笑顔を作った。そうしていると、Bさんが声をかけてくれた。

 

 Bさん「もこう君、いけるで! 次8本倒せば100点いけるやん!」

 

 彼女はいつ見ても笑顔で、誰とでも楽しそうに話す。本当に人間が出来ている。

 他のチョキメンバー(キッチンのバイト二人)も同じシフトになった日とか、更衣室でたまたま合った時とか、結構話しかけてくれる人たちなので自分的にはどちらかというと好印象だ。

 だけど今日は皆ぎこちない。俺とどう接していいのかわからないのだろう。いつもならバイト終わった後普通に挨拶して普通に帰って・・・。まさか、ボウリングにまで俺が来るとは思ってなかったんだろうな。ということはいつもの接し方は所詮上辺だけのもの?

 やっぱり俺来たって迷惑になるだけだわな。。。。

 

 2ゲーム目ラスト投球、俺は6ピン→ガーターで、結局98点止まりだった。それでも他のメンバーが頑張ってくれたので最下位は免れたようだ。

 

 ・・・ところで、今日何ゲームやる予定なんだろうか。

 昔家族やマンションの子供会で行った時なんかは大抵2ゲームだったし、

 高校の頃、先輩たちに誘われて行ったのも確か3ゲームでお開きだった。

 だからボウリングというと2,3ゲームで終わるものだと思っていた。

 だが・・・

 

 キッチンの社員さん「料理長、一応ゲーム数減らしてないんで、5じゃなくて6ゲームなんで、お金大丈夫ですかね?」

 

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 続きは明日

<第6回に続く>

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