紫式部『源氏物語 十五帖 蓬生』あらすじ紹介。赤鼻でダサくても… なぜ末摘花は源氏から大切にされたのか?

文芸・カルチャー

公開日:2024/3/30

 古典文学として世界的にも有名な『源氏物語』。平安貴族が様々な女性と恋をする物語ということは教科書で読んだことがある人も多いかもしれません。詳しい内容を知りたい、どんな恋愛物語かを知りたいという方のために一章ずつあらすじをまとめました。今回は、第15章「蓬生(よもぎう)」の解説とあらすじをご紹介します。

源氏物語 蓬生

『源氏物語 蓬生』の作品解説

『源氏物語』とは1000年以上前に紫式部によって書かれた長編小説です。作品の魅力は、なんといっても光源氏の数々のロマンス。年の近い継母や人妻、恋焦がれる人に似た少女など、様々な女性を相手に時に切なく、時に色っぽく物語が展開されます。ですが、そこにあるのは単なる男女の恋の情事にとどまらず、登場人物の複雑な心の葛藤や因果応報の戒め、人生の儚さです。それらが美しい文章で紡がれていることが、『源氏物語』が時代を超えて今なお世界中で読まれる所以なのでしょう。

「蓬生」の主人公は、久しぶりに登場する赤鼻の姫君・末摘花(すえつむはな)です。美女揃いの源氏物語の中で、彼女は異質な存在。大きくて赤い鼻という容姿に加え、今風のセンスもなく、いわゆる「ダサい」彼女は、源氏にとっても印象深い女性となったようです。蓬生、つまり雑草の生い茂る荒れた住まいで寂しく源氏を思う末摘花を見捨てることはありませんでした。残念ながら、末摘花が源氏最愛の人となることはありませんでしたが、一心に源氏を信じ続ける末摘花を、源氏は大切に扱います。これこそ、現実味のあるシンデレラストーリーなのかもしれません。

これまでのあらすじ

 朱雀帝の寵愛する朧月夜との不倫発覚の一件から政敵・右大臣家の怒りを買い、憂き目を見た源氏であったが、都を離れ移り住んだ場所で明石の君という美しく気品のある女性と恋に落ちた。数年が経ち、明石の君が源氏の子を身ごもった頃、源氏の帰京が決まる。都へ戻った源氏は華々しく政界へ復帰し、朱雀帝が譲位し冷泉帝(藤壺の子で、実の父は源氏)が即位すると源氏にとっては追い風の情勢となった。紫の上との再会を喜ぶ一方で明石の君が生んだ姫君のことを気にかけていた。また、若い頃の恋人である六条御息所が亡くなり、その娘・前斎宮を養女として引き取るが、その美しさにも心惹かれる源氏であった。

『源氏物語 蓬生』の主な登場人物

光源氏:28~29歳。須磨・明石から都へ戻り政界へと華々しく復帰する。

末摘花:故常陸宮の娘。大きな赤い鼻の容姿に加え、今風のセンスがない。古風な暮らしを守りながら源氏を思い続ける。

『源氏物語 蓬生』のあらすじ​​

 源氏が須磨へ下っている間、援助を断たれた末摘花の暮らしは困窮していった。草が生い茂り荒れていく邸で故父宮の言いつけを守りながら古風な暮らしを頑なに守っていた。

 末摘花の暮らしぶりは悪化する一方であった。故父宮から生前冷遇されていた腹いせに、末摘花の叔母が彼女を娘たちの召使にしようと企て、末摘花に近づいていった。言葉巧みに末摘花を田舎に連れ出そうとするが、まるで見向きもせず、結局幼い頃から頼りにしていた侍女を連れて行ってしまった。他の侍従たちも貧しい暮らしに耐え兼ね、散り散りになっていく中、末摘花だけは源氏のことを純真に思い、来訪を待ち続けた。

 須磨から戻ったという話を聞き、にわかに期待を寄せるが源氏が訪れることはないまま月日が経っていく。数か月が過ぎた頃、源氏はふと花散里を思い出し、忍んで外出をする。その途中で、見覚えのある荒れ果てた邸の前を通り、末摘花のことを思い出す。軽い気持ちで末摘花を訪ねると、以前と変わらぬ純真さで源氏を待つ末摘花の姿があった。一途な思いに心を打たれた源氏は、邸を修理し末摘花の暮らしを援助する。その後、末摘花は二条院の東院に移り、源氏の庇護を受けて暮らすことになった。

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