【第15回】「くるり」も参加――noteがつなぐ クリエイターとファンの新しい関係(後編)

更新日:2014/7/9

ファンとクリエイターがつながるnote

――僕も「くるり」大好きなんですけれど、noteにファンクラブができるというのは予想外の展開でした。

加藤:所属されていた事務所からの独立がきっかけでした。それまで事務所が運営していたファンクラブをどうするか? という話になったときに、noteで展開をできないかという風に考えて頂けたのです。

 個人情報をそのまま引き継ぐことはできませんので、従来のファンクラブの方にはnoteの告知をして、改めて入って頂くことになります。

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 アーティストによって異なりますが、音楽のファンクラブって、郵便局で振込用紙をもらって、メアドを手書きで書いて…、という具合にいまでもかなりアナログな世界です。そして、そうやって会員になってくれた人達に、ライブのチケットや、CDを売ったりということをバラバラに行っている。

――たしかに、事務局でもとても手作業が多いと聞きますね。しかもファンから見れば、いろんなところに情報や売り場があって、集約されていない、という。

加藤:そうなんです。公式サイトとTwitter、ブログといった具合に情報源も複数に分散してしまっていますからね。管理も大変だったわけです。

 これもアーティストによって異なりますが、note上で楽曲を売ったっていいわけです。(注:くるりは販売はおこなっていない)そのための機能も備わっています。

 音楽アーティストもそうですが、漫画家さんなど、「自分の手元にデータと権利がある」クリエイターはnoteを使っていろいろなことができると思いますね。

――小説やエッセイなど文字を書く作家さんだとどうなんでしょう?

加藤:そうですね。noteを創作とファンと繋がる場として、1から作品を作っていたける場になっていると思います。マガジン機能を使えば、少しずつ書いた作品をあたかも1冊の本のようにまとめることもできます。マガジンの課金にも対応しましたから、それを売ることだって可能です。

――クラウドファンディングのように先におカネを集めることもできる?

加藤:可能ですね。「こういう企画で本を書くので、読みたい人はお支払いを」と呼びかけて、その後継続課金へ、ということもできるようになっています。このように道具は揃えていっていますので、是非有名かからから、これから創作にチャレンジする方まで、いろんな方に、noteを活用してもらいたいですね。

他の投稿サービスとはどう違う?

――「小説家になろう!」や「comico」のような投稿系のサービスとの違いは?

加藤:noteはそもそも読者が「noteを読みに行こう」という感じでやってくるサイトではないと思っています。だから、note内の検索機能やランキングもあえて付けていないんです。あくまでもファンとクリエイターがつながる場で、他のサービスのようなメディアでもないんですよね。僕はnoteは「クリエイティブプラットフォーム」でだと思っています。

――私たち読者からすれば、「好きな作家がnoteで活動をしている、だから見に行く」といった感覚である、ということですね。

加藤:そうです。彼らのTwitterやFacebookをフォローする、そんな感覚に近いのかも知れません。そして、よりリッチな体験を用意することができるのです。これ言い方難しいんですけど、クリエイターがファンと繋がる、つまり「メディアがソーシャル化」したものだということですね。でも「ソーシャルメディア」って言ってしまうと…。

――SNSみたいですよね(笑)。

加藤:「ソーシャル・メディア・プラットフォーム」という言い方が良いのかも知れない(笑)。

――作り手の立場からしても、そこでファンとコミュニケーションを取ることで、創作の刺激にもなりますからね。コメント欄の有無は切替えたりできるのでしょうか?

加藤:今はまだできないですね。将来的に可能にするかも知れませんが。小説家の方などは、制作過程は見せてもいいけど読者からアレコレ言われると気になってしまうと言う方もおられますからね。でも、クリエイティブな環境がこれだけ変化したのだから、クリエイターも変化していかないといけない、とも思っていたりもします。

 実は、コメントのような形を取らずとも、マガジンにコンテンツを入れる・入れられるっていうのも結構コミュニケーションなんですよね。僕自身もnoteにコラムを書いていますが、自分の作ったもの(コンテンツ)が誰かのピックアップに入るとちょっと嬉しいんですよね。

――従来のブログとの違いは?

加藤:課金の仕組みの有無も大きいのですが、ユーザーインターフェースの洗練度合いを強調したいところですね。僕の母親でも投稿できる、タグとかトラックバックとか難しいことを考える必要がない、タイトルと本文を入力すれば読みやすい見た目で作品を発表できる。noteはそこに特化しています。

――ITが苦手な年配の作家さんでも活用できそうですね。

加藤:もちろん。ぜひやって欲しいですね。

 僕はnoteは、未来の「本」の姿だと思っているんです。電子書籍のように、紙の本の形態に囚われないもの。ファンとコミュニケーションができて、マネタイズができる。しかも、マネタイズのタイミングは本が完成したときに限らない。

 作家さんのようなクリエイターはもちろんなのですが、僕はぜひ出版社にもこれを活用してもらいたいと願っています。一からこのようなプラットフォームを作るのは大変ですから。実は幾つかお話しは頂いて居るので、これからの展開にも注目しておいてもらえればと思います。

 cakesがはじまったのが12年の2月。そこから2年弱でその「オープン化」を果たしたのがnoteだと加藤さんは話してくれました。編集者出身の加藤さんが、自分が欲しかった「本(やコンテンツ)が生まれる場」を体現したからこそ、多くのクリエイターの支持を得ることに繋がっていると言えそうです。
 

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加藤貞顕

加藤貞顕(かとう・さだあき)
1973年、新潟県生まれ。大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。アスキー(現:アスキー・メディアワークス)にて、おもにコンピュータ雑誌の編集を担当。ダイヤモンド社に移籍し、単行本や電子書籍の編集に携わる。おもな担当書籍は『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』『スタバではグランデを買え!』『英語耳』など。現時点で最も日本で電子書籍を売っているダイヤモンド社のiPhone/Android用電子書籍リーダーアプリDReader(現:BookPorter)の開発にも携わる。2011年12月にピースオブケイクを設立、代表取締役CEOに就任。2012年9月に「cakes」を、2014年4月に「note」をオープン。

 

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