官能WEB小説マガジン『フルール』出張連載 【第62回】斎王ことり『M姫の秘密の魔法~年下S彼の華麗なる求愛~』

公開日:2014/11/4

 社交的で活発で美人の誉れ高い妹の紹介だ。その妹の姫野真珠(ひめのしんじゅ)が知り合いの頼みでやるはずだった家庭教師を、姉の美星が代理で受けるこ とになって、始めたアルバイトだった。それは期限つきの古文と現代国語限定の特訓授業の教師だったから、三ヶ月の土曜日曜続いていた授業ももう今月中で終 わる。このお城のような邸宅に来ることもなくなるだろう。

 そして、来月にはこの大人びた容姿にしては人なつっこくて、今時の高校生にしては擦れたところのない城之崎霜夜の姿を見ることもなくなる。

(あと一週間……くらいよね……)

「センセ……センセってば。ねえ、聞いているの?」

 ついぼうっとそんな感慨に浸っていたせいだろう。教科書を見ているようで見ていなかった美星は、彼の声ではっとして顔を上げる。

 すぐそこに若々しく整った顔がある。

「あ、なに?」

「また聞いてなかった? 『今度の試験のあと、家でパーティーを開くから先生もどうぞって母が言っているんだけど、土曜の午後なら空いているよね?』って聞いた」

「あ……」

 ずいぶん長い言葉を聞き逃していたのだと思って美星は焦り、でもその焦りを隠すために一度呼吸を整えてから、わざと彼に冷ややかな顔を向ける。

「霜夜君。お誘いはとてもありがたいのだけどパーティーなの? 高校三年生の秋だったら、もっとぴりぴりしている頃だと思うのだけど?」

「ぴりぴりしたって仕方ないよ。出るのは実力。俺、実力は十分あるから」

 なんて大きなことを言うのだろう。こういうの、確か……。

「”ビッグマウス”そう思った?」

「う……!」

 美星は何も言えずに喉に言葉を詰まらせる。

「事実だから仕方ない。いちいちくだらない謙遜はしないよ。それに、俺が頭がいいのは、知っているだろ? 日本に戻ってきてからも偏差値78だし、一応試 験があるけれど、ほぼエスカレーター式の大学だしね。母の理想は俺が首席で大学に入ることなんだ。うちの母はプライドが高いから」

 この落ち着き払った態度、余裕の眼差し。大人びた語彙。

「自分で自分の適性はよくわかってるんだ。俺は医学に進みたいんだよね。人体の寿命に関すること。テロメアって知っている? 大昔は人は三百歳くらいの寿命があったんだって」

「ああ、そうね。でも今は古文の授業だから」

「さっきセンセが指定したところは、全部読み解いてそこに書いた。三番の古文。四番の漢文。全部、先生が指定したところはやっておいたよ。だから……パーティーに出席するって約束してよ。ね」

 勉強と自分の未来における理想像。そういうものを語るときはその辺の社会人並みに大人びているのに、せがむときの眼差しは子犬のようで『嫌だ』とは言わせないものがある。

「そう、ね。土曜日の夜なら……」

「土曜日の午後いっぱい。昼から夜にかけて」

「顔を出す程度なら……」

「それでもいいよ。センセがつきあってくれるならよかった。俺ひとりじゃ間が持たないんだ。ああいう場って得意じゃないから」

「間が持つ? それだけのために私を午後ずっと拘束するの? それはどうかと思うわ。同じクラスの友達を呼ぶとか……」

 自分が出席するのもおこがましい気がして、美星はさりげなく代案を提供する。

 だが霜夜はまるで考えるに値しないと言うように、あっさりと却下した。

「友達っていうほどの友達はいない」

「じゃあ、彼女とか」

「彼女なんてなおさらいるわけない」

 ふと口に出した”彼女”という言葉に自分で驚き、『いるわけない』の言葉になんだかほっとしている自分を感じる。

「い、いないの?」

「いないよ。だから絶対すっぽかしたりしないでよ」

「え、ええ……」

「センセ……はいるの? 彼氏」

「わ、私……ですか? それは……あの……二十歳超えている大人だもの……社会人だし……平日は……お、おつとめしてて……なのでお察しくださいという感じで」

「へえ? 二十歳過ぎてると……お察しなの。俺帰国子女だから日本のそういうのよくわからないけど、好きな人がいるってこと? 愛し合っている人がいるって?」

「え……」

「何? いないってことなの?」

 霜夜の声音は次第に”教えを請う生徒”の立場を超えて、力強い男の詰問になっている。

「いる……わ。いる……と……思うわ」

 美星の返事も教師というにはおぼつかなくなっている。白状するとこの引っ込み思案な性格のために今までちゃんとした彼氏というものができたことはない。

 

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