まつもとあつしの電子書籍最前線 2011年、電子書籍は進化したのか

更新日:2013/8/14

出版流通に大きな影響をもたらした
東日本大震災

その不安、戸惑いをある出来事が一時的にせよ払拭することになります。言うまでもなく東日本大震災がそれです。3月11日東日本を襲った津波と地震は、東北地方の印刷・製紙工場にも甚大な被害をもたらし、出版物の流通に大きな影響を及ぼしました。週刊少年ジャンプなどがYahoo!を通じて配信されるなど、異例の取り組みが行われ、その結果「技術的・手続き的に電子配付ができる、ということは示された」(Jコミ赤松健代表)というのは、電子出版を考える上で重要な一里塚となったことは否定できません。


ヤフーで無料公開されたジャンプ第15号。他のコミック誌や雑誌もこれに続いた

しかし、技術的には可能でもビジネスとして成立するかはまた別の問題であることにも注意が必要です。国内では、2010年末に国産電子書籍端末+プラットフォームとして華々しく登場したシャープのGALAPAGOSが、今年9月、一部の機種の販売を終了と発表したところ、すわ電子書籍事業からの撤退、と誤って報じられたことも記憶に新しいところです。シャープはすぐに撤退について否定し、先日ストアの拡充・新端末の投入を発表しました。

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12月9日に行われた記者会見でのスライドより

しかし、実際のところ、端末の販売状況は当初の計画を大きく下回っていたとされます。発売当初は読書専用端末として売り出されたGALAPAGOSに対して、8月に汎用Android端末として使用できるアップデートを提供したことによって、シャープ以外の電子書店も利用できることになり、戦略の大きな転換となったと言えます。

米国と日本の電子書籍への取り組みで大きな違いとなっているのが、1つの企業が端末、書籍の販売を一手に行う垂直統合モデルをとるか、複数の企業が役割分担をしながら事業を行う水平分業モデルを目指すかという点です。シャープのGALAPAGOS(※)や、ソニーのReaderも、書籍の調達や販売は他の企業と共同で行っています。(※ただしシャープは9月30日に書籍調達でのCCCとの提携を解消しています)

ソニー”Reader”が本好きに支持される理由

この水平分業モデルを目指す背景には、本を巡るプレイヤーを、本格的な電子化時代を迎えるにあたっても、出来るだけそのままの形でそこに移行させようという意図も見え隠れします。一企業による垂直統合から生まれるメリットは、例えばiTunes StoreとiPhone/iPadとの優れた連携を見ても明らかですが、一方で、強力なプラットフォームを背景に、参加するプレイヤーに対して、強気の条件を提示するといった面も否定できません。

(参考リンク)「こんなの論外だ!」アマゾンの契約書に激怒する出版社員 国内130社に電子書籍化を迫る(BLOGOS編集部) – BLOGOS(ブロゴス)

一方で、水平分業モデルにも弱点があります。2011年は数多くの電子書店が登場しましたが、書店毎に異なる使い勝手、決済手続きを取らなければならなかったり、購入後「どの書店で買った本かユーザーが覚えておかなければならない」といった不都合が出てきました。

これに対して、共通本棚の開発やストア同士の提携といった解決策が取られはじめたのも今年の電子書籍を巡る動きとして注目しておきたいところです。

ブックフェア2011リポート 「電子書籍はハードボイルドなミライを迎えるか」

従来の本の流通では、本を取次事業者に収めた時点で一定の売上げが得られる仕組みが取られていましたが、電子書籍では純粋に実売数に応じた売上げとなります。また、再販制という定価を維持する法律の適用外でもあります。そこでは、これまでとは異なる工夫と努力が無ければ、本はほとんど売れないということも起こりうるのです。

電子出版をゲリラ戦で勝ち抜くアドベンチャー社

大手出版社、電子書店が紙の本と同じ価格を維持する中、この連載でも取り上げたアドベンチャー社によるアプリ群、また角川書店グループが展開するBOOK☆WALKERなどでも、期間限定で値下げキャンペーンを行うなど、これまでと異なる取り組みも始まっています。

ナンバーワンキャンペーン | BOOK☆WALKER

来年にはいよいよKindleの日本上陸も予想される中、国内プレイヤーが目指す「日本独自の電子出版モデル」がどこまでその地固めができる/できたのか、が問われる局面が近づいていると言えるでしょう。


10月24日に発売された伝記「Steve Jobs」は、国内各電子書店の売上記録も塗り替えました。

ミリオンセラー『スティーブ・ジョブズ』 はこうして生まれた