まつもとあつしのそれゆけ! 電子書籍 第2回 電子書籍はどうやって作られているの?
更新日:2013/8/14
電子書籍にまつわる疑問・質問を、電子書籍・ITに詳しいまつもとあつし先生がわかりやすく回答! 教えて、まつもと先生!
ちば :(遠くから駆け寄りながら)ままま、まつもとさーん!
まつもと わ、なんですか、のっけから。
ちば :いや前回の記事のアクセス数が凄いことになっていて・・・ニコニコ動画さんで紹介されたみたいなんですよ。
まつもと :電子書籍の話なのに、ニコニコ動画?・・・・あ、ニコニコ静画でいま電子書籍も取り組んでいるからその絡みもあるのかも知れませんね。
ちば そうか! なるほど・・・結構反響があって、「どうして日本ではアメリカほど電子書籍が普及していないのかっていう疑問が解決したって」いう声も寄せられてます。
まつもと :よかったです。どうしても、日々のニュースだけ見ていてもわかりにくい話でしたからね。今日はどんなお題でいきましょう?
ちば :はい! 「電子書籍ってどうやって作られているの?」です。先週iPad向け電子書籍が作れるiBook Authorも発表されて話題になってますし、なんかワープロ感覚で作れるっていう話なので、わたしもチャレンジしてみようかなー、なんて。
電子コミックの作られ方
まつもと :・・・了解です。そのお話しをする前に、電子書籍の種類について考える必要がありますね。
ちば :種類?
まつもと :はい。2つの分類の軸で考える必要があります。1つは「コミック」「書籍」「絵本や教材」といった本の種類ですね。もう一つはすでに紙の本で発売された本(既刊)か、これから生み出される新刊かどうか、という点です。
ちば 本の種類は分かるんですけど、新刊か既刊で違うんですか?
まつもと :違いますね。まずは市場が大きいコミックと書籍で見ていきましょう。図にするとこんな感じです。
ちば :ふむふむ。
まつもと まず、電子書籍でもっとも売上げが多いB(既刊コミック)から。こないだ。ブック・アサヒ・コムの記事でも紹介されていましたが、スマートフォン、タブレット向けだと、長編のいわゆる「名作」が電子書店大手イーブックジャパン売上げの上位を占めています。
●イーブックジャパン 2011年売れ行きランキング
まつもと :巻数が多いので売上げも大きくなる、という要素はあるのですが、それでも既刊がこれだけランキング上位を占めると壮観です。この記事でも電子書籍が生んだ新しい読者が、あたかも新作のように作品を楽しんでいる、という様子が見て取れます。携帯電話向けにはBL・TL・アダルト作品が人気を博していたのですが、スマートフォンへの移行と新規ユーザーの流入によって脱アダルトが進んでいるという傾向もありますね。
ちば :アラサーちゃん担当編集としては微妙です。
まつもと :(笑)まあ、電子書籍に触れるユーザーが増えたから、相対的にそうなったということですね。で、既刊コミックはほとんどの場合、いま一部で話題の「自炊」とほとんど変わらない方法で作られています。
ちば :あ、先週も出てきた自炊ですね。本を裁断してスキャンする、あのめんどくさいやつ・・・。
まつもと :そう、それです。もちろん、スキャンした画像の汚れを画像編集ソフトで修正したり、と個人の自炊よりかも手間は掛かってます。さらに画面の小さい携帯電話向けの場合は、そこから1コマ毎に切り出して、それが順番に表示されるようにプログラムをしたり、バイブレータと連動させるようにしたり、という工程がありました。
ちば :あれ分かっていてもびっくりするんですよねー。突然ブルッて来るから。
まつもと :先ほどランキングに入っていた作品は80年~90年代のものが多く、もともとアナログな工程で制作されていますし、やはり電子版は自炊的な作り方になるんですよね。これはあとで書籍についても同じ話がでてきますが、出版社にある原稿よりも、印刷した後のコミック本体の方がそういう作業に向いている、ということもあります。
ちば :原稿は貴重なものですからね。紛失したりしたら大変。そしたらA(新刊コミック)はどうなんでしょう?
まつもと :現在ではデジタルツール(Comic Studioなど)でマンガ原稿を仕上げる作家さんも増えてきましたので、そのデータを使って電子コミック化することもありますね。また連載作品を、紙の雑誌だけでなく出版社のWebサイトで無料公開するというケースも増えてきました。たとえばスクウェア・エニックスのガンガンONLINEはかなり力を入れた展開になっています。
ちば :おー、タダで読めちゃうんですね! でもタダで良いんですか?
まつもと :いまマンガ週刊誌を含め、雑誌が売れなくなっていますし、なかなか広告を取ることも難しくなっています。その部分で利益を出すよりも、期間限定で作品を沢山の人に読んでもらって、単行本で回収を図る、という考え方もあると思いますね。
ちば :なるほどー。
まつもと :あと作り方という観点からは、コミックの「見開き」をどうするのか、という議論はあります。パソコンやiPadのように比較的大きな画面であれば、見開きをそのまま再現することができますが、7インチくらいの画面の持ち運びやすいタブレットや、スマートフォンでは見開きの表現には向きません。それなら、はじめから見開きがない形でマンガを描いていこうという作家さんも増えてきているようです。
以前、インタビューもおこなったブクログのパブーでは、マンガも多くラインナップされていますが、そもそも上下にスクロールして読む仕組みですから見開きが存在しません。はじめから、その前提で描かれた作品がほとんどですね。
ちば :ほんとだー。ブラウザだとこっちの方が読みやすいかも・・・。
まつもと :全体にコミックについては携帯電話向けの市場が早くから立ち上がっていましたので、作り手、売り手、そして読み手にも電子化に対する戸惑いは少ないはずです。むしろここからお話しする書籍が、なかなか「これだ!」という作り方にまだ辿り着いてない印象です。
書籍のフォーマットの話
ちば :のこるCとDのお話ですね。
まつもと :どういう規格で書籍を電子化すれば良いのか、その検討が本格化したのも電子書籍元年と呼ばれた2010年からですからね。
ちばさん、基本的に描かれた絵を配置するコミックと違って、文字で構成される本は、画面サイズに応じて文字の大きさが変わった方が読みやすいでしょ?
ちば :はい。以前、「電子書籍は目が疲れる?」という企画で私もチャレンジしましたけど、文字の大きさ、重要です!
まつもと :年配の方にとっての電子書籍の魅力の1つは拡大鏡の世話にならずに、さくさくと本が読める、とも言いますからね。そして、文字の大きさが変われば、ページに配置される文字の分量も変わります。改行とか、注釈なんかも配置される位置が変わらないといけません。これを「リフロー」と呼んだりします。
ちば :マンガだとコマを拡大すれば良いけれど、本の場合はそんなに単純な話じゃないってことですね。でもテキストだから、そんなの簡単・・・じゃないんですね。
まつもと :そうなんです。日本語の場合は、それが縦書きだったり、読み仮名などのルビが振られたりと、結構特殊なルールが存在しています。海外の規格をそのまま持ってきてもちゃんと表示されなかったり・・・。「ルビはここ、脚注はここ、この部分は太字に」といった具合にちゃんと指定ができる、日本の書籍にあわせたフォーマットが求められていたんです。
ちば :なるほど。大変そう・・・。
まつもと :そこで、2010年に三省懇談会、つまり、総務省・文科省・経産省と電子書籍関連業界・有識者からなる検討会が、中間フォーマットとして、XMDFと.bookを採用することを決めたんです。
ちば :なんだか、大がかりな話ですね・・・。
まつもと :書籍をデジタルでどう作って、どう流通させるか、というのは、国としてもとても大事な話ですから。この中間フォーマットがそれまでも実績のあった2つの規格に定まったことで、とりあえず、それにあわせて電子書籍を作っておけば、将来的にさらに高機能なフォーマットがでてきたときなど、あとで別の規格に変換したくなったときにも、それがスムーズに行える見通しにはなったわけです。
ちば :フォーマットが乱立していたら大変ですもんね。