まつもとあつしのそれゆけ! 電子書籍 第2回 電子書籍はどうやって作られているの?

更新日:2013/8/14

本が作られるプロセスが違う

まつもと :これまで既に出版された書籍(D)は、最終的なレイアウトが施された組版データが印刷会社に保管されていることがほとんどです。なので、電子書籍化するときには、そこからデータを電子書店に送ってもらい、必要に応じてフォーマット変換やコピーコントロール(DRM)などを施して販売される、という流れですね。

ちば :データは出版社から、では無いんだ・・・。

まつもと :ちばさんも、「電子書籍に必要な最終データをください」って言われたら、たぶん対応できないでしょ。(ちばさん、首をぶんぶん振る)

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やはり組版の部分は専門知識が求められますから、印刷会社に任せている出版社がほとんどです。結果、最終データも印刷会社が保管していることになる。そういう事情もあって大日本印刷や凸版印刷など最大手をはじめ、印刷会社各社は、電子書籍化のソリューションに事業として取り組んでますし、グループ会社の電子書店に電子化した本を流通させるという展開も行っています。

ちば :印刷会社と聞くと、紙への印刷、というイメージが強いけれど、実際は電子書籍でもかなり大きな役割を担っているんですね。

まつもと :これから作って行くことになる新刊(C)については、いまお話ししたようにフォーマットが確立されつつあり、またそのためのツールも出揃いつつあるので、先ほどのコミックと同じように、出版社、あるいは著者から直接電子書籍をリリースする、という流れも生まれてくるかも知れません。

iBook Authorのインパクト

ちば :著者が直接・・・それは、出版社からするとヤバイ話ですね。わたしたち要らない、的な・・・(ゴクリ)。

まつもと :いやいや(笑)電子書籍元年には、出版社不要論みたいな極論も出たのは事実です。でも、実際のところ、ビジネスベースで考えると、著者一人で出来ることには限界があります。ぼくも、直販で本を出しても、正直利益を出すのは難しいと思います。きちんと営業や宣伝をしてくれる出版社さんとお仕事したいと思ってますよ!

ちば :なんだか、セールストークに聞こえます・・・。(じとっ)

まつもと :そ、そんなことはありません! えーっと、で、その制作ツールの話です。さっきフォーマットの話をしましたが、海外ではEPUBという規格がほぼ標準となっているんですね。でも、これまでは日本語の書式に十分対応できてなくて、中間フォーマットにも採用されませんでした。けれども最近策定されたバージョン3(EPUB3)でこれがサポートされる目処がたったんです。

ちば :えー! じゃあ最初からEPUB3で統一すればよかったんじゃ・・・。

まつもと :タイミングの問題もありますし、あとはこれまでに既に電子書籍化された膨大な本で採用されている、という実績も鑑みて、の話でしたからね。ただ、今後はEPUB3で作られる本が増えていくはずです。ツールが充実してきましたから。

ちば :AppleがiBook Authorを無料で提供するというのには私もびっくりしました。あれもEPUBを採用した制作ツールということでいいですか?

まつもと :うーん・・・そう誤解するのもわからないでもないし、議論もあるんですが、やっぱりちょっと違うと思います。

ちば :というと?

まつもと :iBook Authorは教育効果の高い教材を作ることも目指していて、3Dや音声・動画を組み込めたり、途中で理解度を測るテストを出題するといったことも可能になっています。ワープロ感覚でそれが作れるのは素晴らしいのですが、結果として最終出力ファイルが現在のところ、EPUB形式ではなく、iPadでしか見られない独自形式になってしまうんですね。

ちば :iPhoneでもみられないんですか?

まつもと :ダメなんです。ちょっと残念だし、内部的にはEPUBを採用していても、EPUBを作れるツールとは呼べないですよね。

個人的には、2月10日に発売される一太郎の次期バージョンが、EPUB3出力に対応したのに注目しています。公開先として先ほども紹介したパブーと提携していますが、もちろんその他の電子書店でも展開可能なファイルです。(写真は2011年12月8日に行われた一太郎新バージョン発表会のスライド)

ちば :なるほどー、普段はWordを使ってますけど、これは楽しみかも。
それにしても、一口に「電子書籍」といってもホントにいろんな形があるんですね。

まつもと :そうなんです。書籍については、まだ「こうあるべき」という姿を、作り手の側が模索している段階ですから、読み手としては悩ましいところです。長くなるので今回は触れませんでしたが、iBook Authorで実現できるような「リッチ化」というのも1つの方向性だと思いますし。G2010さんのお話を思い出しますよね。

ただ、いまが試行錯誤の段階だからといって、電子書籍の便利さや楽しさから距離を置いてしまうのはもったいないと思います。例えば自分でできる自炊から試してみても良いし、ガジェットが好きな人であれば財布の許す範囲で新しいデバイスを試してみるのも楽しいでしょう。

また、そういう発展段階だからこそ、意外と作り手は読み手の感想や意見を求めています。Twitterの公式アカウントなどで意見を寄せてみて、いちユーザーとして働きかけてみるというのも有意義だと思いますよ。

ちば :ですね、わたしも「こんな電子書籍が欲しい」って、もっとダ・ヴィンチでのお仕事通じて意見していかなくちゃ!

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■ダ・ヴィンチ電子ナビ編集部:d-davinci@mediafactory.co.jp

 

イラスト=みずたまりこ

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