まつもとあつしのそれゆけ! 電子書籍 第5回 Kindleが日本に上陸しない理由とは?

kindle

2012/3/16

    電子書籍にまつわる疑問・質問を、電子書籍・ITに詳しいまつもとあつし先生がわかりやすく回答! 教えて、まつもと先生!



    ちば :先生、先日ついに新しいiPad発表されましたねー。

    まつもと :でましたね。しかし、iPad2とかiPhone4みたいに数字が付かないから、周辺機器や解説本を出すときにややこしいという声もちらほら。

    ちば :たしかに記事でも書き方に気をつけないといけないですね。

    まつもと :iPad2登場の時には見送られた高解像度のRetinaディスプレイは、電子書籍、とくにマンガとか図鑑のような絵の精細さの再現という意味では、大きな進化ではあるんですけどね。彩度も上がっているので、カラーページも映えるはずです。で、今日のお題は?

    ちば :はい。iPad、ではなくて「Kindleのことをもう一度考えておこう」です! 最近の報道によると「今春にもいよいよ日本上陸!?」ということなので。

    「電子読書環境」としては圧倒的なKindle

    まつもと :この連載でも何度か取り上げてきましたが、Kindleには3つの側面があります。

    1. 電子書籍端末としてのKindle
    2. 電子書籍ストアとしてのKindle
    3. 電子書籍アプリとしてのKindle

    どうしても、テレビのニュースなどではこれらの側面が一括りに紹介されることが多いので、誤解されたり、混同されてしまっている部分もあると思います。その結果、「Kindleすごい」とか「黒船Kindle怖い」といった雰囲気で語られていることもありますね

    まず、電子書籍端末としてのKindle。1000万台以上が発売されたと言われており、名実ともに電子書籍リーダーの代名詞的な存在です。

    ちば :Kindleといえば、この端末をイメージする人は多いですね。

    まつもと :そうですね。冒頭、「新しいiPad」が高精細なディスプレイを備えるという話が出ましたが、電子ペーパー(Eインク)を採用したKindleは、軽くて通常の使用であれば1週間以上バッテリーがもち、表示もあたかも紙の本のような読みやすさがあります。iPadのような画面表示の細やかさではなく、紙に印刷された文字の柔らかさが再現されているのが、読書には適しているという意見も多いですね。

    ただ、この販売台数を支えているのは、端末の性能や機能そのものではないことには注意が必要です。Android端末としてのKindle FireはiPadの約半額ということで人気を集めてはいますが。他の理由はもうちばさんにはお分かりですよね?

    ちば :もちろん! 一緒に勉強しましたから(笑)。電子書店Kindleでの電子書籍の取り扱い点数約100万点と多いこと、しかも価格が紙の本に比べて安く設定されていること、ですよね。

    まつもと :ですです。あとは3つめに挙げたKindleアプリによって、端末や環境を選ばず読書ができて、その状態が同期されるという利便性も人気の理由の1つでしょうね。

    それ以外にも、書籍の購入・ダウンロードについての回線費用が無料だったり、新聞や雑誌の「購読」ができたり、最初の一章分は試し読みができたりと、ユーザーにとっての利便性が高いのも見逃せないポイントです。

    ちば :日本でも「まだ始まらないの?」という声はよく聞きます。一体、なぜこんなに時間が掛かっているんでしょうか?

    なぜKindle上陸に時間が掛かったのか?

    まつもと :それを考えるときには、ちばさんの周囲の出版関係者のKindleの受け止め方がヒントになると思いますよ。

    2010年の時点で、すでに北米ではKindleサービスは立ち上がっており、僕も持っている第三世代のKindle(2010年8月発売)は日本語表示にも対応済みです。それでも上陸しなかった理由は、品揃えに必要な出版社の同意に時間が掛かったという面は否定できないはずです。

    ちば :たしかに、ちょっと不安混じりというか、あんまり語りたくない、というか・・・(もごもご)。

    まつもと :毎回のように聞いてしまってすみません(笑)。本の読者からは見えにくい問題として、「料率」の問題がそこにはあります。

    ちば :りょう・・・りつ?

    まつもと :簡単にいえば、「出版社が本をいくらで書店に卸すか?」ということですね。販売価格に対して一定の料率(パーセント)をかけたものが書店の売上げになる訳です。

    ちば :あ、なるほど。でもそれって紙の本の世界ではあまり問題にならなかったですよね?

    まつもと :紙の本の場合は、第一回でもお話しした再販制度があるので、本の値段は維持されることが法律で決まっています。お店で本が幾らで売られるのかについて、出版元が意識する必要がなかったんですね。もちろん古本の場合はこの限りではありませんが。

    そして、料率についてはまずこちらの表をみてもらいましょう。アメリカのAmazonで既に公開されている一覧表です。

    ちば :す、すうじがいっぱい・・・。

    まつもと :ちばさん、落ち着いて。とりあえず一番上のグループの「ドル」のところだけ見ればOKです。ロイヤリティ、つまり出版元の取り分が35%と70%の2種類あるのはわかりますよね?

    ちば :は、はい。

    まつもと :で、横に見ていくと、最低価格(Minimum)と最高価格(Maximum)の2つの項目があります。

    ちば :は、はい。あ! よくまつもとさんが話に出す「$9.99」もありますね。

    まつもと :そうです。つまりこれは35%のロイヤリティのときは、書籍のファイルサイズに応じて最高価格から最低価格の間で価格が設定できて、70%のロイヤリティを選んだ場合は、サイズに関わらず2.99ドルから9.99ドルの間で価格設定をお願いしますよという意味ですね。

    ちば :ふむふむ・・・でも、なぜ、2つのロイヤリティがあるんですか? 出版元からすれば、70%もらった方がいいですよね。別に35%の項目はいらないんじゃ・・・。

    まつもと :ふふふ、甘い、甘いですよ、ちばさん。この表の一番下にある「Please note」となっているところを読んでみてください。

    ちば :えーと・・・The 70 percent royalty option applies only to purchases of qualifying Digital Books by customers in certain territories.ってありますね。数字の次は英語かー(汗)

    まつもと :詳しくはその先のリンク先ページに記載されているのですが、簡単に言えば、販売対象となる国や地域と販売価格もアマゾンが決めますよ、と書いてあるんですね。

    ちば :なんと! 出版元が販売地域のみならず価格を選べないというのは、ビックリですね。

    まつもと :そうなんです。ようはアマゾンに全て任してもらえれば、ロイヤリティを高く設定しますよ、ということですね。

    もちろん、ここに記されているのは標準的な条件で、幾つかの出版社とは個別に交渉が行われているとも言われていますが、いずれにせよ、これまでにない商慣習がやってきたわけで、アマゾンと日本の出版社の間で交渉に時間が掛かっている原因となっていると言えそうです。