「ミーちゃん、起きたらハンターギルドに居ました。」/『神猫ミーちゃんと猫用品召喚師の異世界奮闘記1』④

文芸・カルチャー

公開日:2019/7/27

神様の眷属ミーちゃんを助け、転生することになった青年ネロ。彼に懐いたミーちゃんと一緒に、異世界での生活を頑張ります! 鑑定スキルと料理の腕でギルド職人をしたり、商人になったり…異世界のんびりモフモフ生活!

『神猫ミーちゃんと猫用品召喚師の異世界奮闘記1』(にゃんたろう:著、岩崎美奈子:イラスト/KADOKAWA)

 町をズンズン軽快に歩いていると、バザーがおこなわれている場所に着いた。ちょっと覗いて行こう。野菜にお肉、干物、色々な物が売られている。商業都市と言われるだけのことはあるね。

 香辛料や調味料がないか探してみると、胡椒に黒砂糖はあったけど高すぎて手が出ない。

 その代わりに、加工すれば調味料などになりそうな物はいくつか見つかった。

 そのひとつがニンニク。鑑定でニンニクと出ているから間違いない。これは買いだね。五十レトで五つも売ってくれた。安い!

 他にもトマトも見つけた。十個で五十レト、二個おまけしてくれたよ。後は菜種油にワインビネガー、玉ねぎ、生姜、塩を買った。ついでに小さい蓋つきの陶器の壺も四つほど買っておいた。

 宿に戻って厨房を借りて調味料を作ってみよう。これでも、料理は得意。一通りの料理は作れる。

 帰り道の一軒の露店の前で、ミーちゃんが急にテシテシ俺の腕を叩き始めた。武器を売っている露店のようだけどなんだろう?

 ミーちゃんを見ると俺を見つめ何か訴えているようだ。ここに何かあるのかな?

 露店に並んだ武器を鑑定していくと、一本の小汚い短剣が目に留まる。アーティファクトと出ている。確か人工遺物という意味だったよな? ということは価値があるということかな? 他にはこれといった物はないし、試しに買ってみるか。

「オッチャン。これいくら?」

「大銀貨一枚だ」

「オッチャン。売る気あるの?」

「小銀貨五枚だ」

「ごめん。帰る」

「小銀貨二枚と大銅貨五枚だ」

「もうひと声!」

「小銀貨二枚でお願いします……」

 そこまで言われたら買うしかないよね? 小銀貨二枚渡して短剣を受け取った。良い買い物が出来たな。でもこれって本当に価値があるのかな? どーよ、ミーちゃん?

 ミーちゃんは大人しいと思ったら、腕の中でスピスピ寝始めてしまっていた。ねぇどうなのよ!

「すぴぴぃー」

 迷いながらも宿に戻って女将さんに厨房を借りたいと言ったら、お昼の仕込みの邪魔をしなければ良いとのことだったのでお借りする。

 さすがにミーちゃんは厨房に入っちゃ駄目と、女将さんに言われ奪われてしまった。女将さん、ミーちゃんを抱っこしてニンマリしている。抱っこしたかっただけじゃないのですか? まあ良いや、ミーちゃんをお願いしますね。

 厨房に入ると、がたいの良いオッチャンと若い男性が大量の野菜の皮を剥いているところだった。

「その辺にある物は自由に使っていいぞ」

「ありがとうございます。お言葉に甘えて、使わせていただきますね」

 鍋に水を入れて沸かす。沸くまでの間に買ってきたニンニクの半分をみじん切りにしておく。フライパンに菜種油を多めに入れて火を点ける。油の温度が上がってきたら、みじん切りにしたニンニクを半分ほど入れて焦がさないように炒める。良い香りがしてきたら、更に油と残りのニンニクを投入、塩少々入れてニンニク油の出来上がり。冷めたら買ってきた陶器の壺に移しておく。

 お湯が沸いたので、トマトを投入。ほんの少し茹でたら笊にあげて水で冷やし、皮を剥く。あら不思議、簡単に皮が剥けちゃったじゃないですか。

 その合間に残りのニンニク、玉ねぎ、生姜をすりおろしておく。

 空の鍋に剥いたトマトを入れて火にかけぐちゃぐちゃにする。本当はここで裏ごしするとベストなのだけど、時間短縮のためやらない。煮詰まってきたら先ほどのすりおろした物を入れ、塩、ワインビネガーも入れて煮込む。これでなんちゃってトマトケチャップの完成。

「それは何なんだ?」

「調味料?」

 いつの間にか、オッチャンと若い男性がこっちを見ていた。

 言ってもわからないと思うので、玉子とお肉をもらい、玉子はオムレツにしてお肉はニンニク油で焼いてみた。オムレツになんちゃってトマトケチャップをかけて差し出す。お肉は一口サイズに切ってお皿に盛る。

「食べてみます?」

 オッチャンと若い男性はそれを食堂に持っていき、女将さんを交えて試食している。

「美味いな……」

「初めて食べる味だね」

「親父、これ使えるぜ」

 どうやら、お口にあったようだね。

 それにしても、ミーちゃんが近寄って来ない。ニンニク、玉ねぎ、生姜。匂いのキツイ物ばかりだからだろうか? ミーちゃんに嫌われちゃったかな? 寂しいぞー!

 女将さんたちは、俺が作った料理をえらく気に入ってくれたようです。旦那さんは頭を下げてまで、作り方を教えて欲しいと言ってきたくらいだからね。

 もちろん喜んでレシピを教えましたよ。間違っても、五連泊以上で夕食もタダにするうえ、衣類の洗濯をしてくれると言われたからじゃありませんよ……。ありがたや、ありがたや。

 それと作った調味料を今後、譲ってくれる約束もした。作るのが面倒なので大変助かる。

 もうすぐ始まるお昼のランチメニューを、早速ニンニク油を使ったステーキとケチャップを使ったソテーに変更するみたい。折角なのでご相伴に与ろうと思う。

 頼んだのはケチャップを使ったソテーの方、まんまポークソテーだった。少しケチャップに甘みを加えたようで、とても美味しく頂きました。さすが、本職。

 ミーちゃんは猫缶とミネラルウォーターだけどね。食べてみる? って聞いてみたけど、嫌々されました。何を食べても問題ないミーちゃんだけど、猫缶が良いみたい。

 お昼になるとランチを求め、多くの人がやって来る。お客が来れば来るほどお肉を焼く匂いが店の外に流れ、その匂いに誘われてまたお客がやってくる。

 女将さんだけでは手が回らなくなったので、お手伝いした。ミーちゃんもカウンターでお客さんに愛嬌を振りまいている。看板娘だね。

「おい、坊主。約束忘れんなよ」

 ハンターギルドで会った、ガイスさんだっけ? この人も匂いに誘われて入って来た客の一人だ。

「おい、ドガ。おめぇ、腕上がったな。これなら毎日来てやるぜ」

「うるせぇ。ほざいてろ。てめぇが来なくても、うちは繁盛してんだよ」

 どうやら、宿の旦那さんと知り合いのようである。

 お客さんがだいぶ落ち着いてきたところで、女将さんが約束があるなら行きなと言ってくれたので、一旦部屋に戻り下着から服まですべて着替え歯も磨く。じゃないとミーちゃんが触らせてくれないと思ったからだ。バッグを持ってカウンターで丸くなっているミーちゃんを抱っこして、ハンターギルドに向かって歩く。

 ギルド内は朝の混雑とは一変して、静かな雰囲気を漂わせている。若干、併設されている酒場に屯っている人たちが、この場の雰囲気を殺伐としたものに変えている。

「おい、坊主。ぼさっと突っ立ってねぇで、こっちに来い」

「坊主じゃなくて、ネロです」

「そういう一端の口を利くようになるにはなぁ、十年早ぇーよ」

「みぃ……」

 ぐぬぬ……何も言い返せない。悔しいです。ミーちゃん。

「ほらほら、紹介がまだでしょう。この恐いおじさんはガイス、これでもギルドの統括主任なのよ」

「うるせぇ。これでもは余計だ」

「それから私はパミル。受付の主任をしてるわ。よろしくね」

「ネロです。こっちはミーちゃんです」

「み〜」

「見た! ガイスさん。この子凄く可愛い。この職場に足りないものは、これだったんだわ!」

「何が足りねぇって?」

「潤いよ。和みよ。癒やしよ。そう、モフモフよ!」

 パミルさんは金髪の凄い美人さんだ。他の受付のお姉さんたちより年ま……お、大人の魅力に溢れた方です……。そんな怖い顔すると美人が台無しですよ。パミルさん。

 それにしても、この世界にもモフラーって居るんだね。モフモフは万国共通なんだなぁ。

「この職場、私を含め美人は捨てるほど居るけど、この可愛さはなかったわ。なんて盲点だったのかしら……」

「だれが美人だって?」

 このガイスさん凄いな。全体の八割が女性の職場で、それ言いますか? 呪詛を含んだ眼差しが数多く突き刺さっているのが、可視化できるのではないかと思えるほど感じられますよ。

 この人は気付いていないのか? それともわかっていて言ってるのか? こういう唯我独尊的な人とは関わりたくないなぁ。

「坊主。なんか言いてえことあんなら、はっきり言えや」

「いやぁ、ガイスさんは勇者だなあと、尊敬の念を抱いてました。はい」

「そ、そうか。て、照れるじゃねぇかよ。ワッハッハ!」

 結構、扱い易い人なのだろうか?

「ネロ君。あなたなかなかのやり手ね……侮れないわ、この子」

 なんですか? こんな純真無垢な青年、他には居ませんよ。失礼だよね。ミーちゃん?

「みぃ……」

 あるぅえ〜? ミーちゃんはそう思っていないんだ……そうなんだ……ショックだよ。

「それで、ネロ君はここで働く気はあるのかしら?」

「はい。本当はハンター志望ですが、武器屋のオッチャンに鍛えて出直してこいって言われ、途方に暮れていたところに舞い降りた幸運。ミーちゃんの保護者として、ニートというのも聞こえが悪いので。喜んで粉骨砕身働かせていただきます。でもハンターになるのも諦めないですよ」

「そ、そう。ニートってのが何かわからないけど良かったわね。それにここで働けば、空いてる時間に裏の訓練場も使えるし、教官もいるからハンターを目指すなら最高の職場だと思うわ」

「ケッ! この坊主がハンターだって、町の外に出たらおっ死ぬのが関の山だぜ」

 ぐぬぬ……毎度毎度、的確なご意見痛み入ります。見ていろよ、いつかギャフンと言わせてやるからな! 俺はやればできる子って、散々言われて来たんだ。やればできるんだ。きっと、メイビー……なんか涙が出てきたよ。

「み〜」

 ありがとう。ミーちゃん。俺はやるぜ! やってやるぜ! たぶん……。

ミーちゃん、起きたらハンターギルドに居ました。

 ハンターギルドでの就業時間は朝五時〜八時と夕方四時〜八時までの七時間。ギルドが一番忙しい時間帯のお手伝いだそうだ。時給は千レト、鑑定スキル持ちということで破格の時給みたいです。トータルで八千レト貰える。え? 千レト多いって? 多くないですよ。これにはミーちゃん手当も入っているのですから。

 ギルドのお姉様方たっての希望で、休憩時間にミーちゃんと戯れたいとお願いされた。ミーちゃんも了解したのでお受けしたら、ミーちゃん手当も付けてくれることになった。子猫なのにお給料貰うなんて、ミーちゃん凄すぎだよ。ミーちゃんのヒモになろうかな……。

 仕事は明日からで、最初は雑用から始まるそうだ。バイトなんてそんなもんだね。先ずは言われたことをこなすのみ。それから、遅刻しないように念を押された。正直、目覚ましが欲しい今日この頃。みなさんはどうやって起きているのでしょうね? 宿の女将さんにでも聞いてみよう。

 今日は帰って良いと言われたので、帰ることにする。

 帰り道、服を買いに店による。二セットしか服がないのは不便だし、寝るときに着る部屋着的な服も欲しいからね。

「ごめんくださーい」

「はい、はーい。お待ちくださーい」

 お店は盛況で女性客が結構居る。男物三割、女物七割といった品揃え。こういう場所は得意じゃないので、さっさと決めて店を出ようと心に決める。

「何をお探しですか? 子猫ちゃんの服は売ってませんが、リボンやスカーフなんてどうです? ほら、これなんか似合いそうでしょう?」

 す、凄い押しの強さ。グイグイきます。いつの間にかミーちゃんのファッションショーが始まっていた。観客は店にいた女性のお客さん。あーでもない、こーでもないとコーディネートしている。完全に蚊帳の外。なぜ、こうなった……。

 仕方ないので自分で服を探しますか。

 今着ている神様が用意してくれた服と同じような服を探すけど、神様が用意してくれただけあって同じ質のものはなかった。神様の服はなかなかに高級品のようだ。なので、麻製のズボンとシャツとジャケットを二セットと、さすがにスエットはなかったので綿製の半ズボンとロンティっぽい服を二セット選んだ。

 その間にミーちゃんのファッションショーも終わったようなので見に行くと、みなさんにジト目で見られてしまった。俺、悪くないよね……。

「厳選した結果、こちらの品をご用意させていただきました」

 青、赤、ピンクのリボンと薄ピンクのレースのハンカチーフのようだ。

 俺が選んだ服全部で一万二千レトに対してリボンが三本ハンカチ一枚で六千五百レトもする。レースのハンカチーフはまた今度にしよう。買ってあげたいけど、ちゃんと稼げるようになるまでは我慢。いつか買ってあげる。約束だよ。

「み〜」

 ミーちゃんも納得してくれたようだ。苦労かけてすまないねぇ。

 他にもタオル二枚とバスタオルを買って店を出た。良い買い物をしたと思う。

「ありがとうございました。また来てくださいね〜」

 どちらかというと、俺よりミーちゃんに掛けられた気がするのは俺の気のせい?

<第5回に続く>

著者プロフィール:にゃんたろう 『神猫ミーちゃんと猫用品召喚師の異世界奮闘記』で、2018年カクヨムで実施された「第3回カクヨムWeb小説コンテスト」異世界ファンタジー部門特別賞を受賞