同級生に付き合い、腐女子だらけのイベントに…! /『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』⑧

文芸・カルチャー

公開日:2019/8/8

話題のNHKよるドラ「腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。」原作。
同性愛者であることを隠して日々を過ごす男子高校生は、同級生のある女子が“腐女子”であることを知り、急接近する。思い描く「普通の幸せ」と自分の本当にほしいものとのギャップに対峙する若者たちはやがて――。

『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』(浅原ナオト/KADOKAWA)

■第8回 ひょんなことから腐女子だらけのイベントに…!

 僕が三浦さんに協力すると決めた理由は、三つある。

 一つは、土曜日暇だったから。もう一つは、単純に興味があったから。そして最後の一つは、自分を偽って生きる三浦さんが本当の姿を曝け出して伝えた頼みを断れなかったから。関係ないと分かっていても切り捨てるのは、さすがに冷たい。

 当日は池袋の東口に集合だった。僕が到着した時、待ち合わせ場所には既にギンガムチェックのワンピースを着た三浦さんがいた。そして三浦さんだけではなく、キュロットスカートを穿いた長髪の女性と、Tシャツジーパンの茶髪男性もいた。

 僕はまず、女性に挨拶をした。

「初めまして。三浦さんのクラスメイトの安藤純です」
「初めまして。サエちゃんから話は聞いてるよ」

 女性が右手を差し出し、僕はその手を取る。どこまで聞いているのだろう。僕はこの女性が三浦さんの腐女子仲間で、イベントに行こうと言い出したのも彼女で、三浦さんは彼女を「姐(ねえ)さん」と呼んでいることしか知らない。任侠か。

「私は佐倉奈緒(さくらなお)。大学生。それでこっちが―」

 佐倉さんが握手を解き、チラリと横の男性に目をやった。

「同じく大学生の、私の彼氏、近藤隼人(こんどうはやと)。よろしくね、安藤くん」

 近藤さんが軽く頭を下げる。茶色い髪。両耳に光る銀色のピアス。どんな人かは分からないけれど、確実なことが一つ。僕のタイプではない。

 佐倉さんが僕を指さして、不敵に笑った。

「安藤くんは、受けっぽいかな」

 攻めと受け。男役と女役。大当たりだ。僕は「そうですか?」と曖昧に笑った。

 四人でイベント会場に出発する。歩いているうちに自然と、僕と三浦さん、佐倉さんと近藤さんのペアに別れる。三浦さんが僕に話しかけてきた。

「今日、来てくれてありがとう。助かった」
「いいよ。どうせ暇だし。ところでさ―」

 僕は、前を行く佐倉さんと近藤さんに視線をやった。

「あの人たちには僕のこと、どこまで話してるの?」
「姐さんに話したのは、安藤くんがクラスメイトだってことと、本買ってるの見られたことぐらい。そもそもわたし、安藤くんのこと、ほとんど知らないもん」

 僕を「知っている」人なんて、学校には一人もいないよ。僕は話題を変えた。

「大学生なんかとどうやって知り合ったの?」
「インターネットの交流サイト」
「へー。ネットで会う人と実際に会っちゃうなんて、すごいね」

 恋人をネットから調達した自分のことを棚に上げ、いけしゃあしゃあと口にする。三浦さんは「別に、よくある話だよ」と首を横に振った。

「ファミレスで主婦とOLと女子高生みたいな奇妙な組み合わせ見たことない? そういうの、腐女子のオフ会だったりするから」
「アクティブなんだね」
「表に出せない分、裏ではっちゃけるの。―あ、着いた。あそこ」

 三浦さんが前方を指さした。僕は三浦さんが示した先を見やる。アニメや漫画のポスターがあちこちに貼られたアニメ専門店が視界に入る。

 僕は、固まった。

 女。
 女、女、女。
 女、女、女、女、女、女、女、女、女、女、女、女。

「……あれ全部、同じイベント行く人?」
「うん。そう」
「何時間待つの?」
「二時間ぐらいじゃないかなー」

 来なければ良かった。心の底からそう思った。近藤さんが僕の方を向き、「ご愁傷様」と言いたげに肩を竦めた。


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