まつもとあつしの電子書籍最前線Part5(前編)電子出版をゲリラ戦で勝ち抜くアドベンチャー社

更新日:2013/5/27

――スマートフォンで読むのに適した切り口、題材というのはあるのでしょうか?

西川: 30代前後が、楽しめそうな書籍は、どんな内容でもいいのではないかと思います。雑学、エンタメ、自己啓発。男性サラリーマン向け週刊誌の特集を抜き出したようなイメージですね。。ストレートに、「いまこれが気になっている、これがしたい」という欲求に答えるもの、例えば、いまですと放射能が怖い、じゃあどうすれば、いいといった切り口ですね。

――出版社に御社から声をかけていった、ということですね?

advertisement

西川:そうですね。青山出版社さんに関しては、高田純次さんの作品を扱わせて欲しいとお声掛けさせていただきました。既に他社さんからも、複数の提案はあったようなのですが、弊社との条件がうまくあったようでした。

現在では、上位ランキングを多く獲得できるようになってきましたので、多くの出版社さんからいろいろなお声がけいただくという機会が増えてきました。ありがたいことです。
その分、プレッシャーですが。(笑)

――はじめの頃のような提案営業の必要も無くなってきた?

西川:そうですね、お声掛けすることは少なくなりました。最近は出版社さんの方からお問い合わせを頂く事が増えてきました。

例えば今1位になっている経済界さんの『人は「話し方」で9割変わる』(福田健)は、他の制作会社さんからお声掛けがあったそうなのですが、すべて断られたそうです。そんな中、お付き合いのあった著者の方から、電子書籍化のお話しがあり、出版社さんにご連絡させていただいたところ、担当者の方から「待ってました」と(笑)。

――調達の形態とリクープラインについて伺いたいと思います。売れているタイトルというのは実際どの位ダウンロードされているのでしょう?

西川:弊社で1番売れた電子書籍は、KKロングセラーズさんの『秘技伝授』(加藤鷹)で。1カ月で40,000ダウンロードを達成しました。我々も出版社の取締役も驚きでした。今もなお売れ続けています。現在50,000ダウンロード近いのではないでしょうか。

実は女性のダウンロードやTweet件数も多いという。『銀座ホステス』『オトコゴコロ』といった女性向けの作品は瞬発力はないが、男性向けに比べて長く売れる傾向も

――電子書籍をリリースされる時の目標はどれぐらいですか。

西川:弊社の目標はすごく低いんです。350円で販売して最低2,000ダウンロード(初月)というラインです。

つまり売上げが70万円以上あればOKです。
と、いいながらも、それ以上を狙えそうな書籍を常に物色していますけどね(笑)。現在契約している出版社さんに関しては、ある程度の実績をお返しする事ができていますので、今後のタイトル選びに関してもある程度こちらのご要望を聞いていただける出版社さんが多くなってきました。

――御社とは、エクスクルーシブ(独占)で契約しないといけないんですか?

西川:そうですね。他社さんの事は知りませんが弊社は縛っていません。出版社さんにデメリットが多ければ、弊社と組む必要性がありませんので、縛りはほぼないです。同じ本を別のプラットフォームで他社から出すのも問題ありませんし、出版社さんもすごくやりやすいと思います。

あくまで黒子に徹する

――そういった出版社には自社で電子書籍を作ろうという考えは、無かったのでしょうか?

西川:そうですね。最近の傾向としては少ないですね。

他の出版社さんのアプリが全然売れていないという状況は周知されていましたし、一から自社で抱えて行える所も少ないですし、リスクが高いということは極端に嫌う出版社さんほとんどだと思いますので少ないですね。

私たちが提案する条件は、制作費は頂かず、完全にレベニューシェア。売れた利益を分けましょうというやり方です。出版社さんがほとんどリスクも手間も負わない条件です。

――なるほど。少し話が戻りますが、タイトルは、さきほど言われたように、30代前後の「ちょっとお調子者の方」に受けそうという基準で探してくるんですか?

西川:30代前後のお調子者になったのは、今年の春ぐらいからかもしれなませんね。以前は、既にガラケーなどの電子書籍を行っていた出版社さんとメインで、お取り引きしていましたので、既に持っているデータの中から売れそうな書籍を探していました。

現在はデータを持っていない出版社さんの場合は、印刷所からデータを取り寄せて頂いたり、既にテキストデータをお持ちの出版社さんには、そのままデータを頂いています。そして弊社はアプリ化を行っていくという工程になっています。

――データは印刷会社にありますが、そのデータの取り寄せはスムースにいくのでしょうか?

西川:そうですね。時間がかかる時もあります。

スケジュール的も、ずれることは本当によくあります。多くの出版社さんにもご迷惑をおかけしています。データが集まらないために許諾が取れず遅れることもありますし、我々のスケジュールが遅れたり……。あるいはアップルの審査に通らない(リジェクトされる)こと。他にもアップルの規定が変わったことにより時間が掛かる場合もあります。

――御社の中には編集担当のスタッフはいないのでしょうか?

西川:審査に対応するために、出版社さんと協議して一部編集することはありますが、基本的に、そういった作業をしないで済む作品をメインで扱わせて頂いています。ただ、審査に引っかかりそうな画像がある場合は掲載しない、というようにしています。

――なるほど。

西川:出版社さんのなかには画像の処理までするよと言って頂いているところもあります。非常に感謝しています。私どもとしては工数を圧縮できるので、優先的にアプリ化する時もあります。

ただ基本的には、出版社さんは電子書籍については手間をかけないのが一般的です。
iPhoneアプリに関していうと、何も手間をかけない状態で、二次使用、三次使用で売上げをあげたいと考えているところが大半です。時間をかけるなら、その分、書籍の方に時間をかけた方が利益率が高いですからね。後ほど詳しく申し上げるように、書籍や出版社のプロモーション活動の一環というような捉え方でiPhoneの電子書籍をリリースしているところも多いと思います。