うんを味方に/『運動音痴は卒業しない』郡司りか⑳

小説・エッセイ

公開日:2021/4/1

郡司りか

 うちの家の周りにはうんこが落ちています。

 今日はうんこの話をしたいのだけど、うんこをうんこというのもなんか嫌なので「うんちゃん」と呼ぶことにします。

 

 初めてうんこのことを「うんちゃん」と呼んだのは、うちのおばあちゃんです。私たちきょうだい3人を乗せてよくドライブしてくれたおばあちゃんは、無事故のゴールド免許でした。今となっては昔の話で、数年前にその免許証はゴールドのまま返納されています。運転が大好きだったおばあちゃんが、この先の人生に対して1つ手放したものです。かっこいい。

 と、まあ話は逸れましたが、車の中で当時やんちゃくれの弟(小3)はわちゃわちゃと騒ぎ立てて妹をからかっていました。

 それを見たおばあちゃんは言いました。

 

「今、うんちゃんしてるんやから‼ 静かにし!!!」

 

 シーンとしたのも束の間。

 全員が大爆笑。弟は泣き笑いながら騒いだ。

 

 慌てたおばあちゃんは「うんちゃんじゃなくて、運転してるねんから…静かに…」と言い直しましたが、笑われると喜んでしまう悲しき性分の大阪人は運転しながらも「今ばーちゃん、『うんちゃんしてるから』って言ったよな!?」と繰り返しました。

 

 そんなわけで、愛を込めて例のものを「うんちゃん」と呼びたいと思います。うちの家の周りにはものすごく落ちているのです。地域では犬を飼っている人が多く、さらにわたしのアパートの周りはそういうのを撤去する人がいません。(いるけど、追いついてないのかもしれません)とくべつ治安が悪い街ではないのだけれど……うん治安は悪い。(上手くない)

 だから夜は歩けない。(過去に酔っ払って4度も踏んだ)

 

 けれども面白いのは、落ちてるうんちゃんを発見した近隣住人の対応です。地面に置いてあるうんちゃんを、ロー石(白チョークの類い)で囲んでマルをし「うんちゃんステルナ」と描くのです。

 犬を飼っている私でも、他ん家の犬のものをビニール越しに取るのさえ躊躇うのに、それのギリギリ周りを囲むなんてなかなかの強者です。(それほどまでに迷惑だからでしょう。飼い主はちゃんと持ち帰ること!)

 

 私はいつもちゃんと持ち帰っていますが、犬を散歩させているだけで濡れ衣着させられないかハラハラします。

 なので最近はうんちゃんをした愛犬に向かって、大きな声で「いっぽんぐそ!!!」「とります!!!」と言うようにしています。(いっぽんぐそというのは、一本で綺麗に出たもののことを指します。)

 あ、ここで「くそ」と言うことは見逃してください。「いっぽんうんちゃん!」では周囲の人に届く力強さはないのです。

 

 つまり何が言いたいかというと、「うちの家の周りにはうんちゃんが落ちています」ということです。

 「けれど、最近踏まなくなってラッキーだなぁ」と続けたかったのですが、そもそも夜に飲み屋へ出ていないからだと書いてる途中に気がつきました。

 4度も靴を台無しにしたことをおばあちゃんに話したら「うんちゃん踏めば、運がつくからラッキーやで」と教えてくれました。なるほど。めでたし。

<第21回に続く>

プロフィール
1992年、大阪府生まれ。高校在学中に神奈川県立横浜立野高校に転校し、「運動音痴のための体育祭を作る」というスローガンを掲げて生徒会長選に立候補し、当選。特別支援学校教諭、メガネ店員を経て、自主映画を企画・上映するNPO法人「ハートオブミラクル」の広報・理事を務める。
写真:三浦奈々