登校を嫌がる子どもが元気に学校に行けるようになった「すごい声かけ」とは?

出産・子育て

更新日:2021/7/8

ポジティブ感情がエネルギーとなる

 先の例のように、私たちはできないことやうまくいかないことなど、ネガティブな出来事に意識が向きがちです。子どもとの会話でも「学校は楽しかったけど、友達とケンカした」などと聞くと、「楽しかった」内容が抜け落ちて、「友達とのケンカ」のほうに意識が集中してしまい、根掘り葉掘り聞き出そうとしたり、心配したり不安になったりします。これは生存本能としてネガティブなほうに目が向くというネガティビティ・バイアスの影響があります。

 その一方で、ポジティブ感情には、私たちを成長させるという役割があります。ポジティブ感情の研究の第一人者であるバーバラ・フレドリクソン博士は、ポジティブ感情は行動や視野の幅を広げ、リソースを形成し、ポジティブな上昇スパイラルを生み出すという「拡張―形成理論」を打ち出しました。フレドリクソン博士の研究によると、ポジティブ感情には次のような四つの利点があることがわかりました。

① ポジティブ感情はより広い視野で考え、行動することに役立つ
 ポジティブ感情は人の注意力や思考の幅を広げます。人は、喜びを感じているときは創造的になり、興味を持っているときには新しい情報やチャンスを見つけ出し、今まで知らなかったことを学んだり、行動を起こしたりします。目の前の問題にとらわれず、数多くの解決策を見つけ、新たな可能性に向けて行動できる力になります。

② ポジティブ感情はネガティブ感情を緩和する
 絶望の中でも「きっと状況は変わる」「物事はよくなっていく」と感じられる「希望」も、ポジティブ感情の一つです。意図的にポジティブ感情を経験することで、根強いネガティブな影響をやわらげる作用があります。ネガティブ感情とポジティブ感情は同時に感じることは難しいものです。また、ポジティブ感情は、体に感じるストレスを軽減して血圧を安定させたり、風邪をひきにくくしたりするという研究報告もあります。

③ レジリエンスを強化する
 楽しみ、幸せ、充実感、満足感、愛情、思いやりなどは、すべてレジリエンスや物事の対処能力を強化するものです。対照的に、ネガティブ感情はそれらを減少させます。ポジティブ感情が、よい行いをする手助けをし、たとえ悪い出来事の中でも、よい側面を探す手助けをしてくれます。

④ 新しいリソースを構築して人を成長させる
 リソースとは、その人が持てる力や経験、考えなどの資源のことです。ポジティブ感情が問題解決能力や新しい情報を得る知的リソース、運動能力や健康につながる身体的リソース、人との強固なつながりといった社会的リソースを築く力になります。 もちろんレジリエンスも生きるうえで重要な心理的リソースです。ポジティブ感情は一時的ですぐに消えてしまいますが、ポジティブ感情によって得たリソースは長期にわたって私たちの成長への資源となっていきます。

 ネガティブ感情が「ネガティブ沼」という下向きのスパイラルをつくるのとは逆に、ポジティブ感情は①~④の性質により、上向きのスパイラルをつくります。ネガティブ感情が命を守るために必要だったように、ポジティブ感情も、長期的に豊かな人生を歩むために必要なものなのです。

 そのため、意識的に子どもたちのポジティブ感情を引き出す工夫や、声かけを行うことは、たくましく生きる資源を日々構築することにつながっていきます。

 山登りが大好きなある男の子は、息を飲むほど美しい大自然を目の前にしたときや、宇宙飛行士が月に降り立った話などを聞くと、「すごいなあ!」と畏敬の念を抱き、「自分を元気にしてくれる」と話してくれました。一方、いろいろなものに興味を持つ好奇心旺盛なある女の子は、新しい本に出合ったときや、見たこともないものを発見したときに、「もっと知りたい!」「おもしろい!」というポジティブ感情が湧き、元気になるといいます。

 ポジティブ感情にも、さまざまな種類があります。楽しくワクワクした気持ちだけでなく、感動、希望、興味、安心というような気持ちもポジティブ感情です。

 みなさんのお子さんにも、その子ならではの元気が湧くポジティブ感情があるはずです。ぜひ、お子さんのポジティブ感情を引き出すスイッチを探してみてください。

<第2回に続く>


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