人は絶対にミスをする。だからこそ大切にしたいこと/「疑う」からはじめる。⑤

ビジネス

公開日:2021/7/16

澤円著『「疑う」からはじめる。』から厳選して全8回連載でお届けします。今回は第5回です。常識に縛られたら、思考は停止する――既存の価値観、古い常識、全部疑ってみよう。問題設定と解決策は、すべてここからはじまる! 元マイクロソフト伝説のマネジャーが新時代の働き方、生き方、ビジネススキルを提案する1冊!

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「疑う」からはじめる。 これからの時代を生き抜く思考・行動の源泉
『「疑う」からはじめる。 これからの時代を生き抜く思考・行動の源泉』(澤円/アスコム)

● 「自分のミスパターン」をリカバリーする仕組みをつくる

 ほかの人にタスクをまかせることは、リスクヘッジにもつながります。

 じつを言うと、僕はとても忘れっぽい性格。最近では、なんとイベントのダブルブッキングをしてしまいました。あまりに忘れっぽいので、僕のビジネスマネージャーが「この人の『忘れる力』はすごい!」と絶句するレベルです。言い訳はできませんが……多くの仕事をやっているので、どうしても見落としてしまうことがあるのです。

 そこで僕は、「忘れたらどのくらいインパクトがあるか」という基準でタスクの優先順位を決めています。つまり、「見落としたらまずい」タスクを先に持ってくるわけです。あまりに忘れることが多いので、見落とすことを前提にして考えているのです。

 そんなとき、「僕の代わりに覚えておいてくれる人」をつくることがとても大切になります。あくまでも自責をベースにしながら、ミスをしやすいタスクには共同責任者をつくってしまうのです。

 僕ほど忘れっぽい人もそうそういないと思いますが、じつはここに仕事について忘れてはならない重要な示唆があります。それはなにか。

 人は絶対にミスをする。

 もはや開き直っているようですが、ミスをしない人なんて世界広しといえどもまずいません。誰もが絶対にミスをするのです。ですから、ミスをすることを前提に、自分の「ミスり方のパターン」を把握しておき、ふだんから人を頼って備えておくことが大切なのです。

 そのときに注意したいのは、ミスをリカバリーしてくれる人にとっても、インセンティブになるような頼り方をすること。

 たとえば、プレゼンのためにリサーチをしてくれる人が、そのリサーチ能力をより高められるフィードバックを得られたり、具体的に評価されたりする仕組みをつくる。そうでなければ、ただヘルプさせただけになり、モチベーションはもとより結果的に仕事の質も下がるでしょう。

 まとめると、前項の「原則①(できるタスクとできないタスクを理解している)」でタスクを取捨選択し、「原則②(やると決めたひとつのタスクに集中している)」で集中力を上げてコンテンツをつくっていきます。コンテンツをつくるうえで迷ったり、アイデアを出しにくかったりするときは、先の【「考える」ための3フェーズ】に従ってほかの人に協力してもらいます。

 そして、こんなことができるのも、すべて「原則③(タスクにかかる時間を把握している)」で自分の仕事のスピードを把握しているからなのです。

 

● 遅れを引き起こす障害=ボトルネックを見える化する

 仕事全体のスピードは、ボトルネックによって左右されます。

 これは、物理学者のエリヤフ・ゴールドラットが書いた大ベストセラー『ザ・ゴール』(ダイヤモンド社)でも詳しく紹介されている「全体最適化理論」のこと。全世界で1000万人以上が読んだとされ、ビジネスの原則としてよく知られています。

 つまり、自分が最高のスピードを出せる状態にするには、まずボトルネック(遅れを引き起こす障害)を知り、それをどう改善するかがポイントになるというわけです。つかえているところを取り除き、突っ走れる状態にしておくということですね。

 そこで、「原則③(タスクにかかる時間を把握している)」の話に戻りますが、まず自分の仕事のスピードを把握することが、仕事や学習全体のスピードを左右するポイントになります。自分の仕事のスピードが速くなったかどうかを知るには、そもそも自分の仕事のスピードを知っておかなければならない、ということはおわかりいただけると思います。

 いまの自分のスピードを測るためには、仕事の中身をすべて棚卸しする必要があります。そして、すべてのタスクについて「どのくらいの時間で完成するのか」を順に測っていきます。

 このとき、あまり細かく測るとその作業自体に時間がかかってしまうので、だいたいの感覚でいいでしょう。あるタスクにかかる時間が1時間なのか3時間なのか、はたまた丸1日なのか。そのくらいの単位でも十分。いずれにせよ、なににどのくらいの時間をかけているのかを知ることが大事です。

 実際にやってみると、「えっ! 会議にこんな時間をかけていたの!?」「細かい事務作業が多過ぎる……」と、きっと驚くはず。意識せずに無駄に費やしている時間は、みなさんが思っている以上にとても多いものです。

 ちなみに僕の場合、たとえば1時間のプレゼンのコンテンツをつくるなら、どんなテーマであれ3時間あればスライドがつくれます。つまり、パソコンに向かう時間を必ず3時間は確保する必要がある。ただし、それはあくまで作業時間です。アイデアや構想を練る「考える」時間は、また別に確保することになります。

 そして次は、「時間がかかっている」と思うタスクの改善案を練っていきます。ここに、あなたのボトルネックが潜んでいるわけですが、一般的にボトルネックとなっている事柄にはこのような要因があります。

▪習熟度が低い。
▪やり方が自己流。
▪そもそも興味がなく嫌々やっている。

 習熟度が低かったり、やり方が自己流だったりする場合は、練習を重ねたりうまくいっている人に教わったりすることで解決する可能性がぐんと高まります。自分の絶対スピードが上がると成長の実感も得られるので、やればやるほどモチベーションも上がっていくでしょう。

 

● 自分にとって「意味がないこと」をやめる勇気をもつ

 では、「興味がないこと」や「嫌々やっていること」にはどのように向き合えばいいのでしょうか?

 僕は、「自分の人生において意味がない」と思うなら「やらない」ことを強くおすすめします。嫌なことなんてやらなくていいのです。逃げちゃえばいいんです。

 もちろん、これは万人にあてはまる方法ではありません。逃げられないこともあるだろうし、その人の性格にも大きく関係します。それでもなお、僕は「やらない」「逃げる」という選択肢を持っておくことはとても大切だと思っています。

 仕事であれば、自分の苦手なことが得意な人を見つけておくのもひとつの手。向いていないのにやっていると、時間もかかるし完成度も上がらない。かえって人に迷惑をかけてしまいます。

 であれば、迷わず人に頼ればいい。ほかの人の時間を借りて、別のかたちで時間を返して、できる限り自分の貸しが多くなるような状態にしておく。ここで重要なのは、相手とWin – Winになるための「交換条件」を考えることでしょう。

 相手が自分をヘルプすることで利益になるような状態をつくればよく、それが「交換条件」になる。ちなみに、僕は数字に関する仕事はからきしダメ。国家予算級の単位で計算をミスってしまうので、エクセルを使うような仕事が発生したらその道のプロに頼むことにしています。そして代わりに、その人の苦手なタスクはできる限りカバーします。

「そんなに簡単じゃないよ」という意見があるのもわかりますが、僕がいちばん伝えたいのは、「自分がいちばん幸せな状態を考えよう」ということなのです。

 これだけ多様な価値観が世の中にあることが明らかになり、個人の選択肢も無限に広がりつつあるいまの時代。それでも、人に与えられた時間の総量は変わらない。だからこそ、僕は「時間の貸し借り」が欠かすことのできない考え方だと確信しています。

 お互いの時間を有効に使うことで、みんなが面白い体験をたくさんできるようになる。時間は有限でとても貴重だからこそ、その時間を自分のためにたくさん使えるようにして、もっと幸せを追求していいのだと思います。

 逆に、後ろ向きの言動で誰かの生きるスピードにブレーキをかけるのは、僕に言わせれば「時間泥棒」。また、なにも与えるつもりがなく、他人の助けばかりを求めるのは「時間の借金王」とでも言えばいいでしょうか。

 よくいる、お世話になっている取引先だからとわざわざ挨拶のためだけに大勢でやってきたり、失礼にならないようにといちいち電話したりしてくる人は、「礼儀正しく時間を奪う人」なのです。

 礼儀を重んじるあまり人の時間を奪ってしまうよりも、どんどん自分の時間を貸したり、相手の時間を借りたりして、もっとスピーディーに、面白い世の中に変えていくほうが断然いいと思いませんか。

「与える時間がない人はどうすればいいの?」と言う人もいますが、自分の時間を貸すことは、小さなことならなんらかのかたちでできるはず。人の助けになることなら、どんなことでもいいじゃないですか。資料作成を手伝ってもいいし、経費の計算を代わりにやってあげてもいい。

 まずは、「時間の貸し借り」をして信頼関係を築いていくことが大切。これを続けていけば、知らないうちに自分自身が相手にとっての「時間の投資先」になっていきます。

 ポイントは、先に貸しをつくること。得意なことを自分で決めて、その得意なことで先に相手の役に立ってしまいましょう。すると、自分がやりたいことをしたいときや、困ってしまったときに助けてもらえるようになります。

<第6回に続く>

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