めぐりあった、「私の物語」。個性豊かな脇役がいてこそ、主役は輝ける『世にも奇妙な君物語』/佐藤日向の#砂糖図書館㉑

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公開日:2021/7/10

佐藤日向

私は月に一度「佐藤さん家の日向ちゃん」という番組の生放送をやらせて頂いている。

その番組には、視聴者の方からおすすめの本をお便りで送ってもらうコーナーがあるのだが、今回はそのコーナーの初回で番組の構成作家さんが私にプレゼントして下さった、朝井リョウさんの『世にも奇妙な君物語』という作品を紹介したいと思う。

全5話の短編集なのだが、ただの短編集ではない。
読了後、まるでドラマ『世にも奇妙な物語』を見たあとに感じる、あの独特な感覚が残った。

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第4話までは、まるでドラマの脚本を読んでいるかのような雰囲気を感じながら読み進めていたのだが、小説だからこそ伝わるリアルさや不気味さが含まれていて、気づけば各話ごとに「自分ならどう演じるだろうか」と演技プランを立てながらページをめくっていた。

なぜ”第4話までは”と感じたかというと、背表紙に「もしこれらが好物でしたら、これはあなたのための物語です。待ち受ける『意外な真相』に、心の準備をお願いします。各話読み味は異なりますが、決して最後まで気を抜かずに」という文言が記されているからだ。

最後まで気を抜かずに読むことで「なるほど」と唸ってしまう本でありつつ、最後までちゃんと『世にも奇妙な物語』になっているのである。

私が好きだったのは第1話の「シェアハウさない」なのだが、第5話の「脇役バトルロワイヤル」を読み終えた後、思わずもう一度全話読み直してしまった。

この奇妙な感動は是非、手に取って体感して欲しい。「脇役バトルロワイヤル」に登場する「普段の言葉数が少ない人だから、フィクションの中で喋らせたくなるものだ。つまり、プライベートの言葉数が多いほど、役者としての台詞は減ると考えたほうがいいぞ」という台詞が、特に印象的だった。

私自身、主役を演じたことはなく、喋ることは大好きだ。
実際、高校生の頃に受けた芝居のワークショップで「君は主役からよく相談される友達役がぴったりだね」と言われたことがある。

これまで、そのことに自覚がなかったが、第5話を読み進めれば進めるほど「私もこの台詞よく言う」「説明台詞、確かに私も任される」と、作中の人物たちに共感している自分がいた。

だが、彼らと私で決定的に違うところは、彼らは”主役をやりたい”と強く思っているのに対して、私は主役を演じることを少し怖いと思ってしまっている。
主役ということは作品の顔になるわけだから、芝居の質、見応え、評価など、脇役とは比にならないくらいの責任が伴う。だが、主役だけではどんな作品も成立はしない。
個性豊かな脇役がいてこそ、主役は輝くことが出来る。
だからこそ『世にも奇妙な君物語』は全編通してまるで「私の物語」のように感じた。

きっと本作は、読み手によって感じ方が変わる短編作品だと思う。
『世にも奇妙な物語』が好きな読書家にはたまらない1冊と言っても過言ではない本作を、夏の間に堪能してみてはいかがだろうか?

さとう・ひなた
12月23日、新潟県生まれ。2010年12月、アイドルユニット「さくら学院」のメンバーとして、メジャーデビュー。2014年3月に卒業後、声優としての活動をスタート。TVアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』(鹿角理亞役)、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(星見純那役)のほか、映像、舞台でも活躍中。