中学時代、些細なことがきっかけではじまったいじめ【正義感の裏返し】/ナダル『いい人でいる必要なんてない』

文芸・カルチャー

更新日:2022/7/21

 人に気を遣いすぎて疲れしてしまう、思ったことをなかなか言えない…。そんな「人間関係」で悩んでいる方も多いのではないでしょうか。

 今回は、人気お笑いコンビ、コロコロチキチキペッパーズ・ナダルさん初の著書『いい人でいる必要なんてない』をご紹介します。

 バラエティー番組に引っ張りだこのナダルさん。本音で生きる彼の姿の裏には、幼少期のいじめ体験や劣等生だった養成所時代など、数多の苦悩や葛藤がありました。そんな経験から「自分を犠牲にしてまで、いい人でいる必要はない」と導き出したナダル流の「本音で生きる術」をまとめました。今最もストレスフリーな男の生き方を綴るエッセイです。

※本作品はナダル著の『いい人でいる必要なんてない』から一部抜粋・編集しました

いい人でいる必要なんてない
『いい人でいる必要なんてない』(ナダル/KADOKAWA)

正義感の裏返し

 運命の期末テストは中学1年生の頃だったと思う。テストが始まる時間を過ぎているのに、ある女子が「先生ちょっと待って! 昨日勉強してないからやばいねん」と言って、教室に入らずテストが始まる時間を少しでも遅らせようとしていた。部活が忙しく、テスト勉強ができなかったらしい。

 そんな中、先生は「はよ入りや」と注意していて、まわりのみんなも「なんやこいつ」と小声でささやいているのが聞こえた。何より僕も、なんで一人のためにみんなが待たされないといけないんだと苛立っていた。

 そして、その圧倒的な〝悪者〟に対して僕の正義感が行動に駆り立てた。

「みんな待ってるんやからお前ええ加減にせえよ。はよ入れや。勉強してないお前がいけないんやろ」

 言い終わった直後のことだった。

〝バチーーーーン〟

 いきなり発砲音のような弾けた音が響き渡った。それが、彼女が手に持っていた教科書を廊下に叩きつけた音だと気が付くまでには少し時間がかかった。女子が僕の前までやってきて言う。

「……今、入ろうと思っとったんじゃ」

 僕は初めて女子にすごまれて、ものすごく戸惑っていた。何事もなかったかのように配られるテスト用紙。だけど、僕は心臓がバクバクと高鳴ってまったく集中できなかった。

 逆ギレした女子を見たまわりのクラスメイトは、首をかしげている。僕もなぜ怒鳴られたのか分からない。「間違っていることを指摘されて、なぜキレられないといけないんだ。謝るのが普通だろ」――そんなもやもやを抱えながら、いつものようにその日を終えた。

 しかし、翌日僕の世界は大きく変わった。教室に入ると何やらクラスメイトの雰囲気が違う。廊下から僕の悪口らしきものが聞こえてくる。最初は気のせいかと思ったが、僕の横を通り過ぎる女子が「きっしょ……」と小声でつぶやいたのが聞こえた。その言葉に「キモいから息止めたほうがいいよ」と同調するほかの女子たち。

 昨日、僕が怒った女子は学年でリーダー格のような存在で、まわりに強い影響を与えていた。

 こうして僕へのいじめが始まった。

 体育の時間に、ただ走っているだけなのに「うーわ、走ってるよ……」という声が大きなボリュームで聞こえてくる。授業中に手を挙げて答えた時にも、間違えるやいなや「なんで分かんないのに手挙げてんだよ」と言われ、正解したとしても「それくらい分かって当たり前なのにね」と言われる。しまいには僕が手を挙げるとクラスの女子の手が下がるなど、その風当たりはどんどん強くなっていった。

 ある日、学校にノートを忘れたので取りに行ったのだが、放課後残っていたクラスの女子が僕の名前と「気持ち悪い」という言葉をびっしりと黒板に落書きしているのを見た。

 最初のうちこそ「なんでそんなことすんねん!」と言い返す余裕があったのだが、毎日のいじめがボディーブローのように効いてくる。一つひとつは大したことではない。きっと僕よりも凄絶ないじめを経験した人なんてたくさんいるだろう。

 だけど、僕にとっては心をへし折られて、次第に言い返す力も奪い取られるような経験だった。授業中に手を挙げる回数が減り、だんだん口数も少なくなり、以前の正義感にあふれた僕とはかけ離れた性格になっていった。

<第5回に続く>


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