「風通しのよい職場はめんどくさい」…本当に働きやすい環境ってなんだろう?

ビジネス

2018/2/19

『悪人の作った会社はなぜ伸びるのか? 人事のプロによる逆説のマネジメント』(曽和利光/星海社)

 もし「我が社は風通しが悪いです!」「マネージャーはあなたの悩みも話半分で聞いて、すぐに解決へ動くことはありません」という会社があったなら、誰もそんな企業に入りたいと思わないだろう。

 けれど、「風通しがよい会社」や「マネージャーがすぐさま問題解決に動く職場」は、「本当に『いい』のだろうか?」

『悪人の作った会社はなぜ伸びるのか? 人事のプロによる逆説のマネジメント』(曽和利光/星海社)は、人事に従事してきた著者が≪本当に≫「のびる会社」や「働きやすい職場」を語ったビジネス書である。

 本書における「悪人」とは、真に会社のことを考えているため、厳しい意見を言ったり、非難の集まる決断をしたりと、周囲からは「嫌な人=悪い人」だと見られてしまう人のことだ。

 彼らは会社や職場のために「悪人役を引き受けて」おり、その場限りの承認欲求を満たすため、会社の未来など考えず、周囲に流されていい顔をする「利己的な善人」とは違う。「真に利他的な悪人たちこそが会社の礎」になるという。

 本書はそういった「一見すると悪」だと思われる職場や人材を、「実は、そっちの方がいいのでは?」と気づかせてくれる目からウロコの一冊だ。

 例えば、「風通しのよい職場」は「どんな人にも等しく発言の機会があり、フラットで民主的な組織」として、いかにも素晴らしい社風のように思える。だが実際、「風通しがよい」は「めんどくさい」という。

 誰でも発言できるというのは、つまり「本当なら捨てておけばよいくだらない発言」に対しても、丁寧に拾って処理しなければいけない。コミュニケーションコストが無駄に上がってしまうことになる。

 不勉強な若手が、自分の思い込みだけで会社の方針に茶々を入れることもあり、マネジメント側からすると「もうちょっといろいろ考えてから発言してくれないかな」と言いたくなるような拙い意見もあったりする。そういった発言まで、しっかり受け取って処理しなくてはいけなくなるのが、「風通しのよい職場」なのだ。

 そもそも、「意見を言わない」のは、職場の問題ではなく「本人の心」の問題なのではないかと本書は語る。「意見の言えない職場」というのはあまりなく、特別風通しのよい職場でなくとも、自分の意見を言う人は言うし、言わない人は言わないのである。

 さらに「意見の言いやすい」場を作ろうとする試みは、「徹底的に考え抜く姿勢」「あえて意見を具申する気概」「真剣に議論する気風」を阻害してしまう危険性もある。

 そう考えた場合、「風通しのよい職場」に、それほどメリットはないのではないか……というのが、著者の意見なのだ。

 もう1つ、マネージャーは「部下の悩みも話半分」に聞き、愚鈍な方がいいとか。

 組織という集まりにおいて、一人の意見はあくまで「心理的事実」に過ぎない。部下の一人が「先輩がチームの雰囲気を乱している」など悩みを相談してきたとしても、別の人は「あの先輩のおかげで緊張感のあるいいチームになっている」と思っているかもしれない。

 悩みを聞いた段階で「即解決すべし!」と先輩に注意を与えてしまうことは、チーム全体のことを考えた際、間違った行動なのかもしれないのだ。

組織はできるだけ多面的に見る必要があり、その情報収集の間は何も決めつけず、メンバーから何も決めてくれないダメな上司だ、悪人だと思われようとも、『積極的判断停止』をすることが重要なのです。

「即解決」ではなく、敢えて部下の話を鵜呑みにしない「愚鈍」さも必要なのだ。

 その他、「ストレス耐性のない人も採用する」「社員は子ども扱いしろ」「職場は暗くていい」といった、リーダー(経営者)側の逆説から、転職を考えている人に向けた「面接を通じて分かる、避けたほうがいい社風をもつ企業」なども載っている。

 本書は人事に関係する仕事をしている方はもちろん、上司、部下、転職者、幅広いビジネスパーソンにとって、耳触りのいい言葉に惑わされないための力強い味方になるだろう。

文=雨野裾