あの社長を支える「右腕」たちのスキルと思考とは 働き方改革は自分で起こそう

ビジネス

公開日:2018/2/22

『社長のまわりの仕事術』(上阪徹/インプレス)

「働き方改革」が叫ばれるこのご時世。社会全体の流れだとは言っても、完全に行政や会社任せでは心許ないのもまた事実。自分自身でも「働き方改革」をしてみようという思いから、仕事術を扱うビジネス本に興味を持つようになった方も多いようだ。

 世の中には経営者について書かれた、もしくは経営者が書いた本が星の数ほど存在する。その中には仕事のモデルを示してくれるものや、実践的な技術を伝授してくれるものも数多く存在する。社長についての本はおもしろいものQが多いことは間違いないが、多くの読者にとっての「今の自分」にとってもっと身に即したモデルを示してくれる人物である「社長のまわりの社員」について書かれた本は思いの外少ない。

 経営者以外の情報を豊富に扱うビジネス書もあった方が良いのではないか?という疑問から生まれた本、『社長のまわりの仕事術』(上阪徹/インプレス)をご紹介したい。本書はタイトルの通り、「社長のまわり」の一員として社長を支えている人々への取材をもとに作られた、まったく新しいタイプのビジネス書だ。エネルギッシュに動く社長に日々振り回されながらも、スピードや無茶振りに臆さず、ビジョンを実現していこうと奮闘している人たちから我々が学び得るものは実に多い。

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■建築家・隈研吾の「右腕」の仕事術

 2020年の東京オリンピックのメインスタジアムとなる新国立競技場の設計者に選ばれた隈研吾氏。彼が主宰となって動かしている「隈研吾建築都市設計事務所」で代表取締役を務める横尾実さんは、まさに分刻みのスケジュールで多忙を極める隈研吾氏の「まわり」の人物だ。横尾さんは国内で進む10近いプロジェクトを見ているという。

多忙な隈氏をサポートするメール:効率を上げる

 隈氏は一年の半分は海外に出てしまっているため、その間はメールを使ってのやりとりになる。そのときにできるだけやりとりをスムーズに行うため、ある程度オプションを用意して、隈氏からイエス・ノーで回答を導き出せるように意識しているのだと横尾さんは言う。多忙を極める“ボス”の仕事効率を維持するためには、「まわり」の社員のこうした機転も欠かせないのだと学ばされる。

隈氏の建築哲学を理解する:生産性を上げる

 横尾さんには、隈氏のパートナーとして、またプロジェクトのまとめ役として、意識していることがあるという。

建築は、隈研吾一人で作れるものではありません。いろんな関係者と一緒に作っていく。でも、最終的にできあがったものは、隈の建築哲学が色濃く反映されているものでないと作品にならないんです。ここにポイントを置いて、日々確認作業をして、それをいろんな関係者に伝えるということを意識しています。

 そのためには、隈氏の建築哲学をしっかり理解しておかなければならないため、実際に隈氏の書いた本を読んだりすることも重要な仕事になっているのだそう。この姿勢を一般的な職場に応用すると、「上司から具体的な指示が出たときに、なぜその仕事をするように命じたのか、その意味を考えて行うことで、単純な作業の連鎖から脱し、お互いに共通の目標に向かって仕事ができるようになる」といったところだろうか。上司からの指示の意図を深く理解して、能動的でより良い仕事環境を構築するためには、普段の何気ない会話や飲み会の場などで、上司の仕事に対する「哲学」の部分に踏み込んでみるのは良いことだろう。

 横尾さんは、デザインに関する細部までのチェックを隈氏と一緒に行い、その一方で効率化にも取り組んでいる。

これだけ多くのプロジェクトが進んでいますので、細部の作り込みに関しても、ある種の標準化をしていこうじゃないかと、資料を作ったりしています。

 言わずと知れた「巨匠」の幅広い仕事を成り立たせるためには、横尾さんのような「右腕」の存在が必要不可欠であることは間違いない。

 本稿では1名のみの例のご紹介に留まるが、本書には、カルビー・松本晃氏、DeNA・南場智子氏、ストライプインターナショナル・石川康晴氏、隈研吾建築都市設計事務所・隈研吾氏、中川政七商店・中川政七氏、サニーサイドアップ・次原悦子氏といった、日本を代表する6名の人物を「まわり」から支え、動かしている13人への取材が収録されている。会社の「一員」として働く人にとって、この上なく実践的な仕事術が本書には詰まっており、有益な読書となることだろう。

文=K(稲)