客のアレに吐き気……ソープランドで働く男性従業員の過酷な日常

アニメ・マンガ

2018/7/15

『ソープランドでボーイをしていました』(久遠まこと/KADOKAWA)

 風俗と聞くと、そこで働く女性たちを思い浮かべる。だが、風俗店で働くのは女性だけではない。風俗嬢を支える男性従業員「ボーイ」も働いている。彼らは、いったいどんな人間なのだろうか。

『ソープランドでボーイをしていました』(久遠まこと/KADOKAWA)は、玉井次郎氏による、紆余曲折あって風俗店で働いた“男性従業員目線”の同名ノンフィクションをコミカライズした作品だ。風俗の現場を男性従業員目線で語る本作は、読んだ後に「人生」を感じてしまった。全2巻にわたるノンフィクションの一部をご紹介したい。

■職と金を失い上京、そしてソープランドでボーイに

 このマンガの主人公は玉井次郎。年齢は50歳。妻と高校2年生の息子を持つ一般的な父親……だった。彼の運命を変えた2つの出来事がある。1つは、株に手を出し、約1000万円の貯蓄を溶かしてしまったこと。もう1つは、宮城県仙台市内で働いていたために、東日本大震災で被災し、職を失ってしまったこと。

 職と金を失い、首が回らなくなった玉井。家族を養えず生命保険による自殺を考えたとき、ある求人広告が目に留まる。吉原のソープランドの男性従業員の募集だ。「月収40万円」という数字に、藁にもすがる思いで上京した。

 そしてここから玉井の「ボーイ」の日々が始まる。

 本作を読んで感じるのは、風俗が「行き場をなくした人々の終着点」であることだ。玉井は一般人だったが、度重なる不運によって仕方なくここへ流れ着いた。

 玉井が働く風俗店「シンデレラ城」にいる人々も同様だ。若い頃は暴走族として暴れ回り、パチンコで生計を立てていたバツ2の大木。私生活のことは一切話さず常に不機嫌で、上司にへつらい部下に威張り散らす40歳の岩田。会社経営に失敗して流れ着いたが、シンデレラ城で営業の鬼に生まれ変わった西村。

 一言では語れない人生を経て、様々な人々が風俗店のボーイになる。本作を読むたびに感じる。明日は我が身かもしれない。筆者だって、読者だって、誰だって玉井のことを笑えない。本作はただの風俗ノンフィクションではない。

■過酷すぎるボーイの世界

 ボーイとして働くことになった玉井。その日々は想像以上に過酷なものだった。朝11時に出勤して、まずは清掃から始まる。シンデレラ城は高級ソープ店で、2階建て。その内部をきれいに掃除する。汚れやごみが残っていようものならば、意地悪な岩田が怒鳴りつけにくる。一般企業ならばパワハラで訴えられるだろう。しかしボーイの世界では常識なんて通用しない。

 その後、店前の掃き掃除やドリンク類の補充などを済ませ、女の子たちが出勤してくる。ボーイたちが大きな声で挨拶をしている様子を見ると、体育会系を思い出す。……嫌なほうの体育会系だ。

 そして最初のお客さんが店を訪れる。先述の通りシンデレラ城は高級店なので、接客もきっちりしなくてはならない。おしぼりを出す。ドリンクのオーダーを聞く。ホテルマン並みの礼節。大変だ。本当に大変だ。

 これで月収が40万円ならば、まだ救いがある。しかし玉井は求人広告に騙されてしまった。実際の収入は手取りで約30万円。しかも社会保険や労災はなし。休日は月に3日。超絶ブラックの日雇い労働者だ。

 それでも玉井は家族のために歯を食いしばる。2階で遊ぶ女の子と客に飲み物を出すために何度も階段を往復し、おにぎりを食べたいと言う女の子のために雨の中でも自転車を走らせ、遊び終えた部屋の片づけで客のアレに吐き気をもよおし、理不尽にキレる上司に全力で頭を下げる。

 そんなこんなで夜中の12時半まで働き、その日の業務が終わる。……が、下っ端の玉井はまだ終わりではない。ボーイである彼らは寮に住んでいる。寮といってもマンションの一室を借りたようなもので、先述の3人を加えた、4人で一緒の部屋だ。そのため玉井は、風呂掃除やゴミ出し、その他雑務もこなさなければならない。玉井が就寝できるのは、いつも午前4時。

 過酷。あまりに過酷だ。ボーイの世界では何も言わずに辞めていく、いわゆる「飛ぶ」が当たり前だそうだ。一般常識では不義理なことこの上ないが……理解できなくもない。

 これがボーイの世界なのだ。本作を読むと、「真面目に生きよう」という気持ちが強くなる。

■風俗店の驚きのサービス「カード屋」

 この他にも、店の前に立つ「立ち番」やリピーターを増やすために行う「営業」など、多岐にわたるボーイの仕事を紹介している本作。しかしそれ以外にも目を見張るノンフィクションがある。例えば、「カード屋」だ。

 意外にも風俗店ではクレジットカードが使える。吉原には「カード屋」なる人々が存在し、彼らに電話をかけると、背広を着た男がアタッシュケースを手に現れる。そしてカードを切る。驚くべきことに、クレジットカードの明細にはシンデレラ城の名前が出ないというのだ。

 どうやらカード会社の加盟飲食店とカード屋が手を組み、加盟飲食店でカードを使ったように手配しているらしい。同様にシンデレラ城で領収書を切っても、なぜか実在する飲食店の領収書が出てくる。これは違法……だろう。しかしボーイが意見できるわけもなく、玉井はやむを得ず処理する。

 この他、出来レースと化した保健所による「立ち入り検査」、風俗嬢とボーイの間で共有される客のアソコの大きさ、店長が警察の「講習に参加して健全に営業していれば吉原のソープを潰しにかかることはありません」という言葉に激高するシーンなどもご紹介したかったが、気になる方はぜひマンガで楽しんでほしい。

 終始ボーイ目線で風俗を紹介する本作品。一面的なイメージばかりが思い浮かぶこの世界だが、このノンフィクション体験談を読むと少し印象が変わる。風俗の現場は厳しい。そして彼らにも彼らなりの事情を背負って一生懸命働いている。

 このあと玉井は過酷なボーイから抜け出すことはできるのか。もとの生活に戻れるのか。玉井の姿から何かを感じ取っていただければ幸いだ。

文=いのうえゆきひろ