整形にハマりこんだ4人の女たち――主婦が出産前の身体に戻るため“膣縮小術”を…!?

エンタメ

2018/9/24

『テティスの逆鱗』(文藝春秋)

 女としての自信が金で買えるというなら、いくら金を出してもいい。年を取ってもいつまでも女でいたいし、美を誇っていたい。誰かに愛されたいし、認められたい。そんな思いが女を整形へと導くのだろうか。プチ整形で満足できれば良い。だが、身体をいくら変えても心が満たされない時、一体どうしたら良いのだろうか。

 唯川恵氏著『テティスの逆鱗』(文藝春秋)は、整形にのめり込んでいく4人の女を描き出した美と恐怖の異色作。読めば読むほど、見てはいけない世界をのぞいているような気持ちになる。だが、そんな世界をのぞかずにはいられない。尽きることのない女たちの欲望。美容整形は天国なのか。地獄なのか。整形にハマっていく女たちの姿が恐ろしくてたまらなくなる。

 舞台は、とある美容整形外科クリニック。腕が立つと評判の美容整形外科医・晶世のもとには毎日多くの患者が訪れる。「美」だけを取り柄に芸能界を渡り歩くアラフォー女優・條子。出産前の身体に戻り、浮気相手との逢瀬を楽しみたい36歳主婦・多岐江。かつて自分の容姿をバカにしてきた人たちへの逆襲として、完璧な男との結婚をねらうキャバクラ嬢・莉子。心を病んでいるのか、独自の美を求めて整形を繰り返し続け、奇怪な顔になってしまった資産家令嬢・涼香。女たちは立場も年齢も違うが、美容整形にハマりこみ、どんどんエスカレートしていく。しまいには「禁断の領域」にまで達してしまい…。女の心模様に震撼させられる作品だ。

 この本には幸せな女が出てこない。みんなどこか不幸で、満たされないでいる。そして、美しくなりさえすれば全てが手に入ると勘違いし、自分を美しくすることに熱中している。その姿はどう見ても異様。読めば読むほど、読者は言い知れぬ恐怖を感じるだろう。

 人前に出る「美」が仕事道具である女優やキャバクラ嬢、金に余裕のある資産家令嬢が整形をするのは容易く想像できる。だが、子どももいるどこにでもいる主婦・多岐江が整形にハマり、感覚を麻痺させていく姿には特に戦慄させられる。妊娠線を失くしたい。肉割れの跡も失くしたい。子どもを産む前のおっぱいに戻したい。しまいに、彼女は浮気相手のために、「ガバガバ」だと思われないように、膣縮小の手術を受ける。「どうしてそこまでするのか」と思わされるが、女としてまだまだやっていけると思いたいのだろう。誰かに愛され、認められたいのだろう。今の生活では満たされない何かがどこにでもいる女を整形へと走らせる。

 異様な女たちの姿を目の当たりにすれば、誰だって「こういう風にはなりたくない」と思わされる。だが、誰もが一歩間違えれば美容整形の底なし沼に引きずり込まれてしまう可能性がある。「美」というものを追求したくなる気持ちは誰の心にでもある。女たちの心理描写があまりにも巧みで、他人事では済まされなくなっていくのがこの本の恐ろしさ。この本は女のためのホラー小説。「美」を求めるがあまり、身も心も狂っていく女たちの人生からあなたもきっと目が離せなくなるに違いない。

文=アサトーミナミ