細田守「“死者の国”は『行ってみたい地獄』のイメージ」 芦田愛菜、岡田将生ら豪華キャスト陣も登壇 『果てしなきスカーレット』ジャパンプレミアレポート
PR 公開日:2025/11/14
前作から約4年。細田守監督、待望の新作映画が2025年11月21日から公開される。タイトルは『果てしなきスカーレット』。世界的にも有名な古典『ハムレット』の現代版とも言える本作は、これまでの作品とは一線を画す物語となっている。11月5日に開催されたジャパンプレミアで、監督と豪華キャストの面々が本作の魅力について語った。

●ヴェネチア国際映画祭で10分を超える拍手喝采
舞台挨拶が行われたのは、東京・上野にある東京国立博物館の表慶館。公開から19年経つ『時をかける少女』の舞台にもなった場所だ。レッドカーペットが敷かれ、建物全体が赤くライトアップされる中、純白のドレスで現れた芦田愛菜は主人公のスカーレットそのもの。その隣に立つ岡田将生は、スカーレットに救いの手を差し伸べる看護師・聖役を彷彿とさせる穏やかな笑顔。壮大で情熱的な本作にふさわしい光景が、公開への期待感をさらに高めていた。

9月のヴェネチア国際映画祭で世界初上映され、10分を超える拍手喝采とスタンディングオベーションを受けたという本作。細田守監督は、会場に集まった観客に向けて「海外の映画祭などで上映してきましたが、日本の皆様のために作った作品。やっと観ていただける時が来て嬉しく思っております」と挨拶した。
ヴェネチア国際映画祭といえば、カンヌ国際映画祭、ベルリン国際映画祭と並ぶ世界3大映画祭。監督とともに現地に赴いた芦田と岡田は、「ヴェネチアは憧れの街。映画を観てくださった皆さんの笑顔が、忘れられない思い出になりました」(芦田)、「芦田さんとゴンドラに乗ったり…。いい思い出もできましたし、映画愛あふれる空間で皆さんと一緒に完成作を観た経験は、僕も一生忘れません」(岡田)と、かけがえのない経験を熱く振り返った。

●9歳の娘に向ける身近な想いが壮大な映画に
ヴェネチアという場所が日本と違うのは、『ハムレット』をはじめとするシェイクスピア作品が、学校で暗唱するほど馴染み深いものであること。そのような場所で絶賛されたことについて、監督は「ジャーナリストの方から『アクションで復讐劇でハムレットで…エンターテイメントな映画ですね』と言われました。日本でハムレットというと格調高いイメージですが、海外の皆さんには普遍的なものとして受け止めてもらえたようです」とコメント。
すでに77の国と地域での配給も予定されており、スケールの大きさを感じさせるが、スタートは身近なところだったと監督は語る。「今回は僕ら(スタジオ地図)にとっても挑戦尽くしで、製作に4年半もかかってしまった。でも根本にあるのは、僕の9歳の娘がこの世界でどうやって生きていくのか、今は頼りなげだけれども、これからだんだん力強くなって未来を目指してほしい、という想いでした。身近でちいさなところから始まった映画です」。

●細田守監督作品への出演が続くキャスト陣も熱い想いを吐露
本作には、細田守監督作品への出演が4度目となる染谷将太も参加。染谷は、「僕自身も監督の作品のファン。今回の作品は、この世のすべての人が当事者ではないかと。僕たちの世界の未来に地続きでつながるようなお話に心を打たれました」と、本作にも携われた喜びを露わにした。

同じく、声優として細田守監督作品への出演が続く宮野真守も、「まだまだ見たことのない映像表現があることに驚きました。アニメーション技術の向上を諦めない監督の胆力は、じつはお話の中でも重要なところ。ネタバレを避けますが、その映像技術が生々しく不思議な世界観を作り出しています。心に訴えかけてくるような大きな家族愛も感じ取ってもらえたら」と熱い想いを口にした。

●ベテラン陣も唸らせる「現代を映し出す鏡となりうる映画」
本作に声を吹き込んだベテラン俳優たちもステージに登壇。吉田鋼太郎は、「今日は僕が話す時間はあまりないと思うので…。この映画を見てから静かな感動が続いています。出させてもらえて本当に嬉しい。人を許すこと、復讐の連鎖は許されない、という絶対的なテーマをもって、それがまったく解決されていない世界に真っ向から切り込んだ作品。その勇気に心からエールを送りたい」と、抑えきれない想いを、最初の挨拶でフライング気味にコメント。

また、登壇したキャストの名前を一人ずつ挙げ、「(芦田)愛菜ちゃんは、言われないと彼女だとわからない。染谷も、途中でキャストが変わってるんじゃないかと思うくらい…」と、それぞれの声の演技をユニークな表現で絶賛して客席を沸かせた。
細田守監督作品に初参加となった斉藤由貴は、「立ち向かう強さみたいな美しさが表出した作品だと感じました。映像は、デジタルのようでもアナログのようであり、繊細な線があるかと思えば野太い線もある。実験的な映像を、投げやるのではなく、隙のない高みを目指していらっしゃる。最後まで考え抜く姿勢をお持ちなのではないかと」と、作品の魅力に加え、唯一無二の映像を実現した監督の姿勢を称賛。

「舞台を見た時のような感動があって腰が抜けるような想いだった」と、完成作を観た時の率直な感動を伝えていたのは、演劇シーンで俳優のキャリアを積んできた松重豊。20代の頃から度々演じてきた『ハムレット』の思い出を語りながら、「僕や吉田さんにとってハムレットは大きな存在。面白いのは、ヴォルティマンドとコーネリウスという端役の役割を監督が広げてくださっていること。かつて蜷川幸雄さんがシェイクスピア作品に対して語っていたように、現代を映し出す鏡となるような力を持つ作品。いきいきと息づいている」と讃えた。

●“死者の国”は「行ってみたい地獄」のイメージ
中世から“死者の国”にやってきた王女・スカーレットは19歳の設定。奇しくも、芦田がプレスコで初めてスカーレットの声を収録したのも19歳の時だった。芦田は「現代を生きる19歳と、中世を生きる王女の19歳は持っている覚悟が違うだろうから、その違いが出るといい、というお話を監督として。悩みながら、中世に生きたジャンヌ・ダルクやエリザベス一世の作品にも触れて、役を作り上げていきました。体当たりじゃないとできないシーンもたくさんあり、声を吹き込むというより魂を吹き込むような気持ちでした」と収録を振り返った。
スカーレットは、国王である父を殺した敵への復讐を誓い、現代からやってきた看護師の青年・聖と出会って“死者の国”を彷徨う。芦田が「“死者の国”では、空との境目が海のようになっていて、妄想が膨らむ」と注目するべき映像について触れると、監督は「行ったことがない世界ですので。死者の国と言っても、行ってみたい地獄のようになったら素敵なんじゃないかと」と映像表現の工夫について伝えた。
また、音楽のこだわりも、細田守監督作品の見どころの一つ。本作の音楽の詳細はまだベールに包まれているが、サプライズも用意されているようで…。「祝祭的な賑やかで楽しい歌を、じつはスカーレットや聖が歌うのですが、様々なバリエーションで出てきます。音楽の中でも大きなポイント」と、監督が音楽のヒントになる話を伝える場面も。
●生きることについて、愛することについて考えるきっかけに
細田守監督が「生きることについて一緒に考えたい」というメッセージと共に送り出す本作。ステージの最後に、芦田は、「先日読んでいた本に『人生の意味より人生そのものを愛せ』という文章がありました。スカーレットは自分で自分を傷つけ、『こうあらなければ』と生きる意味に縛られていた女の子。でも、聖との出会いを通じて自分自身を愛せるようになっていく…そんな作品なのかなと。人生への愛を見つけられた時、生きる意味を生み出せるのかもしれません。この作品を観て、生きることは愛することなのではないかと感じています」とコメント。

「たくさんの解釈があると思いますが、スカーレットの生きる世界に思いを馳せながら、生きることや愛することについて一緒に考えていただけたら嬉しい」という呼びかけに、会場から自然と拍手が湧き上がっていた。
ひと足先に本作を鑑賞したキャスト陣が、溢れ出す気持ちを抑えきれないように吐露していたジャパンプレミア。未だかつてない映像表現を携えた圧倒的な没入体験は、彼らが語った通り、「劇場じゃないと伝わらない」ものがあるだろう。鑑賞後、自身の中に思い浮かぶのはどんな想いなのだろうか。それを確かめるためにも、ぜひ劇場へ。
取材・文=吉田あき、撮影=金澤正平


原作小説『果てしなきスカーレット』
著:細田 守
角川文庫 定価 946円(本体 860円+税)
https://kadobun.jp/special/scarlet/
10月24日(金)発売

児童文庫版『果てしなきスカーレット』
作:細田 守 挿絵:YUME
角川つばさ文庫 定価 946円(本体 860円+税)
https://tsubasabunko.jp/product/hateshinakisukarred/322505000194.html
10月24日(金)発売

映画『果てしなきスカーレット』
原作・脚本・監督:細田 守
https://scarlet-movie.jp/
©2025 スタジオ地図
11月21日(金)公開
