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f植物園の巣穴

f植物園の巣穴

f植物園の巣穴

作家
梨木香歩
出版社
朝日新聞出版
発売日
2009-05-07
ISBN
9784022505880
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f植物園の巣穴 / 感想・レビュー

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ヴェネツィア

噛みしめるような、味わい深い小説世界。読み終わった後も、しみじみといい小説だったという感慨に浸ることになる。この迷宮世界は、けっして直線や、幾何学的な立体を構成することはなく、まるで螺旋構造のようだ。しかも、それは末端と基点とが連続しているのである。まるでエッシャーの騙し絵の世界に迷い込んだかのように。ただ、結末はやや残念だ。

2012/03/11

風眠

梨木版『アリス・イン・ワンダーランド』という雰囲気だった。f植物園の椋の木のうろに落ちてから不思議な世界に迷い込んだ主人公の男。その不思議な世界は、心に蓋をして忘れようとしていた男の深層意識の世界だった、ということがラストの数十ページで明らかになる。もうほとんど慟哭と言っていい程の哀しみを、このような形で書いたというアイデアが本当に素晴らしい。植物、動物、前世、死、愛、etc、命のきらめきがそこここに織り込まれている。己の哀しみを知り、魂が浄化されていく感じは、異界譚というムードに合っていたと思う。

2012/06/13

散文の詞

変な中毒性のある文章です。 読み始めた時は、?の連続でしたが、どんな結末が待っているのか気になってきて、最後まで一気に読んでしまいました。 半分も理解できないような気もしますが、不思議な余韻が残りました。 万人受けはしないでしょうが、こういう小説を一度は読んでみるのもいいかも。

2022/04/07

kariya

穴に転がり落ちたら別世界、というのが異国のお伽噺だけれども、こちらは落ちる前から異界が漂う。植物園に勤める主人公の前に現れるのは、千代という同じ名の何人もの女、前世が犬で稀に今生でも変化する歯科医の奥方、名のないカエルに似た子供。相変らず巧みな文章を追う内に、散らばる断片は一つの流れを形作り、不思議で暖かな水辺へ打ち寄せて、読み終えてもしばらく心が離れない。思えば水は生と死、双方に程近い。ほの暗い洞を潜り、異界をさ迷い、少しく痛みを伴って生まれ直す。夫も妻も、父も子も。

2009/10/31

jam

冥界へ妻を連れ戻しに行ったのは、ギリシャ神話ではオルフェウスであり、日本書紀ではイザナミであるが、どちらも連れ戻すことは叶わなかった。生死の境界は容易ならざるものである。子供の頃、熱に浮かされて見た夢のような本作であるが、男はただただ間抜けではあるまいか。母子の別れは、たとえ児が産まれる前であっても、身も心も割くが、その身を痛めぬ男には、悲しみの域を超えることはないのかもしれない。男がそれを知るのは、冥界への穴を訪い、痛みと共に目覚めた後のこと。冥界の子が母を思い、父を母のもとに帰す哀れが胸に沁みる。

2016/04/26

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