砂漠の思想 (講談社文芸文庫―現代日本のエッセイ)
砂漠の思想 (講談社文芸文庫―現代日本のエッセイ) / 感想・レビュー
マウリツィウス
安部公房の創作過程備忘録が語る不条理劇場の真実、ヴェールに包まれていたはずのS・カルマの正体についても幾許か触れられ何故あのコモンセンスを逸脱した文法が成立したのかが解き明かされていく。カオスの起源にあるのはヴィスコンティ映画や監督としてのロブ・グリエ、ゴダールの視覚演出様式の整然さはこの論集にも秘められているようだ。20世紀を支配した文明の黎明とは映画=近代メディアの映し出した懐かしい夢想の日々でもあり怪異のシンボルと誤解されるこの作家の温和にして真摯な家族を慈しむ表情が現れる。大江と打ち解けた思い出。
2013/05/04
うえうえ
芸術作品における厳しい姿勢。『もっと内部に食い込んでいく必要がある。そしてその批評は、あくまで常識的な価値判断にさからい、それを否定するようなものでなければならない。』
2018/10/07
hiro
デビューの1950年代から60年代にかけて様々な雑誌に掲載されたエッセイや対談記録など、軽い乗りから本質への言及を含めて収録されたもの。雑談めいた内容もけっこうあったが・・・転換期の芸術と批評について、芸術にならない批評は批評でなく、批評でない芸術は芸術でない。自己の内部と外部の関数関係がいかに複雑であろうと、その間の緊張と往復運動なしには批評も芸術も成り立たないとか・・・狂気とは自己の内部と外部の関数関係の破綻であるとか・・・当時の阿部公房の心意気らしい言葉が垣間見えた。
2020/08/22
トーマ
エッセイというよりは、思っていることをどんどん書いている感じ。文章というよりは喋っているように感じた。難して理解できてない部分もありつつ、急にエッセイというよりは小説のような文体になったりと、創作ノートに近い本だった。たぶん安部公房が好きでないと読みにくいかもしれない。作家の根っこの部分は、生まれた場所や育った環境の影響が強いのかもしれない。
2019/08/17
人工知能
安部公房のエッセイをまとめたもの。安部の独特な視点と発想がいっぱい詰まっていて思わずうなってしまう。「砂の女」に代表されるように、彼にとって「砂」とか「辺境」とかは生涯のテーマで、このエッセイを通して、その流動性、とらえどころのなさ、田舎の不変性とは違って都会という内なる流動的な空間、そのなかへの失踪、といった彼の思考を改めてとらえなおすことができた。
2015/12/08
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