冬の日誌/内面からの報告書 (新潮文庫 オ 9-18)
「冬の日誌/内面からの報告書 (新潮文庫 オ 9-18)」のおすすめレビュー
米人気小説家ポール・オースターが過去の自分と語り合う異色短編。人間を「豆」だと思っていた幼少期の記憶
『冬の日誌/内面からの報告書』(ポール・オースター:著、柴田元幸:訳/新潮社)
「この小説家の頭の中って、どうなっているんだろう?」とか「こんな変わった話、一体どうやって思い付いたんだろう?」という小説との出会いは、読書の醍醐味の一つでしょう。
風変わりな中編2編が収録された『冬の日誌/内面からの報告書』(ポール・オースター:著、柴田元幸:訳/新潮社)は、著者自身を投影した1947年生まれの主人公が、過去の自分に「きみ」と呼びかけながら回想を行い、新たな発見やあちこち記憶の寄り道をしながら展開していきます。
生まれてから現在までの、二十一の定住所(パーマネント・アドレス)。もっとも、生涯でどれだけ頻繁に引っ越してきたかを考えると、「恒久的な(パーマネント)」という言葉はおよそ適当とは思えない。むしろ、二十の中継地点を経た末に、恒久的になるかもしれないしならないかもしれないひとつの住所に至っているという感じ。
今の自分が「現在地」にいるとして、自分はどのような「点と点」を経てきたのか? そしてこれから、どのような「点」を経て「現在地」は更新されていく…
2024/2/22
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冬の日誌/内面からの報告書 (新潮文庫 オ 9-18) / 感想・レビュー
優希
回想録ですね。身体と精神に掘り込み語る世界は、自分のみならず読者にも語りかけているのだと思えてなりません。儚くてあたたかく、幻想的な世界が美しかったです。
2024/02/13
Porco
回顧録。解説の通りオースターの様々な作品の源泉を知ることもできるし、オースターの内面や過去の旅を通して自分の方も旅に出たりできる本。読んでてオースターのように冬ではなくどちらかというと秋という年齢であっても、思い返してみたら思春期前の思考を予測はできても反芻は無理だということを思い知らされた。同じように無知以下の何ものかへの移行は自分にもあったはずなのに、それは今では一部を除き消え去ったか埋もれてしまった。今に連なるわたしであり君は幼い頃にいったい何を考えたのだろう?
2024/02/19
うた
良くも悪くもオースターの回想録という感じ。語りのリズムが心地よく、特に少年の日の思い出は良いことばかりではないけれど、微笑ましく輝いている。60歳台前半から、後半に向かおうとする時期に書かれたものだから、人生の苦しく目を向けたくない面も十分みて、苦味がちょうどいい刺激になっている。
2023/12/27
いっこ
オースターの小説は読んだことがないのに、「柴田元幸訳」とあるだけで借りてみた。老作家の回顧録なのかと思って読み始めたのだが、次第に引き込まれていった。20を超える住まいでのくらしぶり、少年期のユダヤ人アイデンティティへの思い、忘れられない映画の克明な描写(私まで見た気分になった)、元妻から返却された夥しい手紙、なんと濃厚な回顧録だろう。自ら「冬の時代」に突入したという作家の残り火がゆらゆらと踊っていた。
2024/03/11
左近
「君」という二人称で語られる回想。家族がポール・オースター好きで、家に何冊も置いてある割に、彼の人生そのものについてはよく知らなかった。個人的には、小説よりもこちらの方が面白かった。1947年生まれのユダヤ人という出自(祖母が祖父を射殺していたとは!)。公民権運動やベトナム戦争、冷戦に伴う核戦争の脅威に加え、自身が徴兵される恐怖。一方で、学生生活はしっかりと謳歌。いつも思うことだが、昔の学生と今の学生は、知的水準が段違い。若い頃「金のために書いた」と卑下している探偵小説。楽しんで読ませていただきましたよ!
2024/04/11
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