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あとは切手を、一枚貼るだけ (中公文庫 お 51-7)

あとは切手を、一枚貼るだけ (中公文庫 お 51-7)

あとは切手を、一枚貼るだけ (中公文庫 お 51-7)

作家
小川洋子
堀江敏幸
出版社
中央公論新社
発売日
2022-06-22
ISBN
9784122072152
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あとは切手を、一枚貼るだけ (中公文庫 お 51-7) / 感想・レビュー

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あすなろ

魅力的なお二方が手紙をそれぞれ綴るという形式で構想・構成された作品。いきなり後書からであるが、書き出し手の小川氏は何も堀江氏に構想を告げずに描いた物を送って、堀江氏はそれを受けて描き始めたとの事。それでこれだけの作品となる事が凄い。内容としては、お二方が投げられたボールを柔らかく受け止めながら、内に秘めたる狂おしい愛を描き表していく様が読者の胸に迫る。ある種のもどかしさと共に。これに対峙するには読み手として、静謐な一定の長い時間を用意した方が良い、という作品だった。これだけのお二方の文通を読むのだから。

2022/08/28

aika

まぶたを閉じて生きることに決めた「私」から、光を失った「ぼく」へと送られた一通の手紙。別れから永い時を経た再会の往復書簡は、大空を飛んでいく鳥の翼を想起させます。かつて愛し合ったふたりの手紙に宿る、アンネの日記やまど・みちおの詩など「点」としてそこに存在するはずのモチーフからどんどん線が伸びて繋がっていくようすに、星座が散りばめられた夜空のような果てのなさと深さを感じました。読者は、時には「私」になり、「ぼく」になり、そのどちらでもない外縁で世界をぽうっと眺めている。そんな読書時間は、至福のときでした。

2023/03/13

エドワード

ブラタモリで見た、ニュートリノを測量するカミオカンデ。巨大な研究施設でボートに乗り合わせた男女が文通を始める。男は怪我で失明し、女は自分の意思でまぶたをおろす。二人の驚くほどインテリジェンスあふれる手紙の旅。文系の私にはついていけないよ。宇宙飛行士から始まり、実験動物、チェレンコフ光、船舶気象通報に渡り鳥(梨木香歩さんの名前が嬉しいね。)、飛んで飛んで途切れない話題に脱帽だ。それでいて、二人は音楽を愛する詩人である。来世で二人は、塩分を求めてカメの涙を飲むアマゾンの蝶とカメに転生していることだろう。

2022/10/29

ちぇけら

ぼくはきみがいないぼくになって、河岸に係留されつづけたハウスボートのように、きみが閉ざした世界を眺める。あいは消えるはずがないのに、もう会えないきみの無言の声をなぞっては、それを酸素に縫い付けるのだ。会いたいと、書くことはできなかった。生まれなかった命。閉ざされた瞼。貼られなかった切手。過去に決定的に分断されたぼくたちは、それでもだれよりもあいしているから、言葉を紡いできた。イメージはリンクし、あらたなイメージが生まれる。永遠に会えないとしても、言葉の愛撫だけは、魂の交感だけは、決して奪われることはない。

2023/10/31

takakomama

小川洋子さんの「私」と堀江敏幸さんの「ぼく」の往復書簡14通。美しい言葉で、過去の記憶が綴られています。静謐で繊細で儚い物語。手紙を読んでも、ふたりの具体的な状況は、おぼろげにしかわかりません。かつて私とぼくは一緒に暮らし、今は離れ離れのようです。離れていても、お互いを思いやり、心は寄り添っているでしょう。

2022/09/18

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